言えない理由

 

「えぇえっ!銀ちゃん、好きな人いるのっ!?」

…一斉に振り返る士度、花月、ヘヴン、波児、…蛮。

「おいっ、銀次!ホントか!?」
「ちょ、銀次さん!本当なんですか!?」
「やぁああん銀ちゃんっvそういうことなら言ってくれればいいのにっvV」
「………!!!」
「…………………!!!!!」
マドカがいるとはいえ…やはり気になる士度。
普段の美しさは何処へやら、完全に取り乱している花月。
色恋話となっては落ち着いてはいられないヘヴン。
なんていうことを聞いてくれたんだ、と今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいの波児。
何も言わない蛮。
相棒の好きな人、となっては気になっても仕方がないが…
それとは違う意味で気になってしょうがない蛮。

「えっと…うん、いる…かな」

「…マジか」
「…あぁああああ……」
「へぇえvやんっ、可愛いっv」
「………………!!!!!!!」
「……………………………………」
普通に驚く士度に対し、、絶望的な花月。
決定的な銀次の台詞にテンション上がりまくりのヘヴン。
…蛮の沈黙に只ならぬものを感じる波児と、もはや何もいうことのない蛮。

ここでまず危機を感じたのは波児。
蛮が異様に静かなのだ。変なオーラまで纏っている。

「……。」
次にその異変に気付いたのは士度。
その黒いオーラが目に入ったらしい。

「…マスター、ありがとよ、コーヒー美味かったぜ…。オレそろそろ屋敷に帰るわ…」
これから起こるであろう騒動から逃げようと、HTから出て行った。

(あぁ…オレもできることならこの場から去りてぇよ…)
波児は嘆いた。なぜコイツらはいつもここで問題を起こしてくれるんだ?
見ている側のこっちも考えてくれ…

「ねぇねぇ銀ちゃん、その好きな人って誰?どんな人??」
無邪気に銀次に聞く夏実。
その無邪気さが蛮を黒く染めていっていることに気づくはずもない。

「え、っと…その、なんていえばいいのかな…。本当なら、好きになっちゃいけない人、かなぁ…」
少し困ったような顔で笑う銀次。

「…銀ちゃんっ!いいわ、協力してあげるわ!!さっ、思い人は誰!?」
銀次の健気な思いに感動したのか、ヘブンが目を輝かせながら銀次の手を握った。

(あぁ…やめとけヘヴンちゃん…また蛮が…)
ちらり、と蛮を見ると、…やはり。
ヘヴンを思いっきり睨んでいる。


「えぇ…?んー…。それは…いくら皆でも言えないなぁ…」
困ったように笑いながら、ごめんね、と謝る。

「銀ちゃん…。いいわ、相談ならのるからねっ!いつでも頼って頂戴!」
「そうだよ銀ちゃん!私も協力するからね!」
瞳をキラキラと輝かせながら、なおも銀次の手を握り続けるヘヴン。
くわえて夏実ももう片方の手を握り始めた。

「あは…ありがとうヘヴンさん、夏実ちゃん!」
それに笑顔でこたえる銀次。
普段なら可愛いとさえ思えるその笑顔が…
今の蛮には、とても痛かった。

銀次の笑顔が痛い、とかではなく。
その眩しい笑顔が…自分の醜い心に響く。
それがとても…辛かった。

…誰だよ、好きな奴って。
そんなの、俺には全然言わなかったじゃねェか。
今のその笑顔も…好きな奴思い出して笑ってんのかよ…?

そんな思いが、胸にぐるぐると渦を巻く。
…別に、銀次と付き合っているわけでもない。
というか、銀次が自分をそういう目で見ているのかどうかすらわからない。
……銀次にとって俺とはなんなのか。
ただの相棒?それとも親みたいな存在?兄弟とか?
…わからない。銀次は、俺を…どう思ってんのか。

ただ、確実なのは…
自分は、これ以上の関係を望んでいる…。
相棒じゃなくて…所謂恋人。
相手が自分をどんな風に思っているのかすらわからないのに、こんな願いは滑稽なのだろうか。
――それでも。
銀次が、欲しい。

「…伝わると、いいなぁ」
ぽつり、と。
銀次が漏らす。
穏やかな微笑を浮かべながら。

「……」
伝わんなくていい。
…俺以外の奴となんか…ンな、恋人になんかなんなくていい。

…こんなこと言ったら、お前どんな顔すんだろーな…。
ひどいよ蛮ちゃん…とか?
今にも泣きそうな顔すんだろな。
…そういう表情も、仕草も、全部。
俺だけに見せてればいいんだよ…。

ドス黒い独占欲が、俺を染めていく。
…銀次にしか消せない、黒いシミ…。
他の奴ではどうにもできない、この気持ち。

「…蛮。ホラ、飲め」
俺の気持ちを察してか、波児から差し出されるブルマン。
「オゴリだよ。安心して飲め」
「…おう」
カチャ、とカップを持ち、口につける。
ちょうどいい熱さのコーヒーを喉に流し込む。
…少し、落ち着いたような気がする。

隣でヘヴンと夏実と楽しそうに話している銀次に目をやる。
…やっぱ、男の俺と一緒にいるよりも、綺麗な女とか可愛い女の子と話してるほうが楽しいんか?
まぁ、俺だって女の乳は大好きだけども。
…だけど、銀次には勝るまい。
肝心な本人が気づいているかどうかは謎だけれども。

――俺には銀次しかいないのに。
銀次には、他の奴がいる。
そのことが、すっごく悔しい。

「…ん、サンキュ」
飲み終えたコーヒーカップを波児へ戻す。
ちら、と波児の顔を見る。
……ちくしょう。笑ってやがる。

 

皆には秘密って言ったけど…

そりゃ、オレの好きな人は蛮ちゃんなワケで。
結構好きだ好きだ、って言ってるから、皆気付いているとは思うんだけど。

…でもね。
皆が思ってるより、そんな軽くないんだよ…?
ほんとに好きなの。
男同士ってわかってるけど…好きなんだ。

こんなこと…蛮ちゃん、わかってるかな?
知っていてほしいような気もするけど、知らないでいてほしいような気もする。

…もちろん、そういう…恋人?っていう仲になりたいなぁ、って思ったこともないことはないけど。
――もうちょっと、この『相棒』っていう関係でいたいなぁ、って思う方が強くて。
なんていうか…やっぱり、出会った時のまんまでいたい…気持ちもある。

あ、でも…やっぱり恋人になりたいなぁ…
あぁ、もう。自分でもどうしたいかわかんないよぉ…。

ただ、蛮ちゃんに好かれてるといいなぁ…っていうのは絶対。
やっぱり、好きな人には好かれたいもんね。
もうちょっと欲張りいうと…
蛮ちゃんの特別でいられたらいいなぁ、って。

オレにとって蛮ちゃんは誰よりも大切で、大好きなヒト。
蛮ちゃんもそうだったらいいなぁ…。

蛮ちゃんがそこにいるのに言えないよね…?
『オレの好きな人は蛮ちゃんです』なんて…ねぇ?


 

銀ちゃんをちょっと大人めにしてみました。やっぱり両片思い大好きだー。

 

お題