起きなきゃ。
誰かが、呼んでる…
大切な、人が。
「んぁ…」
目を開けると、見覚えのある天井。
あれ…オレ、たしか倒れちゃって…、それで…?
「…?」
そこで、気づいた。
…誰かが、手を握ってくれてる…。
ちょっとまだ頭が痛いから、ゆっくりと上半身を起こす。
ぱさ、となにか音がしたけど、確認する気力もない。
あー…周りがぐるぐるしてる…。
そして、握られている手の方へ視線を動かす。
「……蛮ちゃん」
――何故か、そんなに驚くことはなかった。
まるで、蛮ちゃんが隣にいる事が当たり前のような。
話すのだって、こうやって触れるのだってすごく久しぶりなのに。
なのに、ずっと傍にいたような…不思議な感覚。
「全部…蛮ちゃんが…?」
ふと周りを見渡すと、氷水が溜めてある桶と何枚かのタオル。
…そういえば、さっき身体を起こした時におでこから何か落ちたかも…。
掛けてある布団を見ると、やはり濡れタオルがあった。
「…ごめんね…」
蛮ちゃんは寝ていた。
オレのベッドにうつ伏せるようにして、…オレの手を握って…。
暖かかったのは、これだったんだね…。
「疲れてるよね…今日学校にきたばっかりだし…オレのこと色々してくれたみたいだし…」
悪いことしちゃったなぁ…。いっぱい迷惑かけて。
…ていうか、蛮ちゃん、どうやって家に入ってきたんだろう…
あれ、オレ今日鍵閉めるの忘れてたかも。
「……」
無意識に、蛮ちゃんの頭を撫でる。
今日一日、素っ気ない態度とってごめんね、というのと、…あの時のコト。
「…蛮ちゃん…」
まるで、さっきまでの自分が嘘みたいだ。
何を悩んでたんだろう。こんなに好きなのに、オレはこの気持ちを捨てようとか思ってた。
一生後悔するところだった…。
…そうだよね。
オレはバカなんだからさ、考えたってどうしようもないことだってあるんだよ。
なら、当たって砕けろ?だっけ?うん、当たっていけばよかったね。
蛮ちゃんは、わざわざオレの家まで来て、看病までしてくれたのに。
…怖かっただろうな。迷ったんだろうな…。
「っ……」
オレの家の前で、蛮ちゃんが戸惑っている。
…そんなのを想像したら、思わず泣きそうになった。
「なーに泣きそうな顔してんだよ」
「っ!?」
突然、隣から…大好きな、低く甘い声が聞こえてきて。
「…悪ぃ、寝ちまった」
「…蛮ちゃん…」
あぁ、もうダメだ。
…涙が零れた。
「…銀次」
そっと、オレの頭を撫でてくれる。
「ごめんな…勝手に家入ってきたりして。…カッコ悪ィ話、俺今日お前のこと学校帰りからつけてたんだよ。
そんで、家入ンの見えて…」
追っかけて家に後から入ったら、なんか倒れた音がして…
探したらお前が倒れてた、って。
蛮ちゃんは、本当に申し訳なさそうな顔で謝ってきた。
オレは必死で横に首をぶんぶん振って、蛮ちゃんの言葉を否定した。
「蛮ちゃんが謝る必要ない…!…悪いのは、オレだから…!」
蛮ちゃんに嫌われてるんじゃないかって考えるのが怖くて、自分の殻に閉じこもって。
――蛮ちゃんは、悪くないよ…
「あのね、蛮ちゃん…聞きたいことがあるの…」
涙をぐいっと拭って、まっすぐ蛮ちゃんの顔を見る。
「…どうして、あの時口止めなんかしたの?
マンションのおじさんに頼んで…オレ、ホントに…」
ホントに、ショックだったんだよ。
蛮ちゃんの方から、オレたちの関係を断ち切られた、って。
本当に、怖くて…哀しくて。
「…踏ん切り、つけようとしてた。
あのまんまじゃぁお前になにすっかわかんなかったから…」
だから、オレから離れた、と。
「…やだよぉ…もう、離れたくないよ…。あの時、オレひどいこと言っちゃって…ごめんなさい。
謝るから…だから、これからは一緒にいて…蛮ちゃぁん…!」
当たって砕けろ。だよね?
…考えたって、いい台詞なんて思いつかない。
だから、ストレートに伝えた。
「銀次…」
蛮ちゃんの悲しそうな顔が、微笑みに変わった。
とても、優しい表情…。
「…なぁ、銀次…俺らってすっげぇ遠回りしたと思わねェ?」
ぽつん、と蛮ちゃんが切り出して。
いきなりだったから、意味がわかるまでちょっと時間がかかった。
――あぁ、そういうことか…。
「…うん。最初っから、同じだったのにね…」
そう。
最初から、同じ気持ちだったのに。
お互いが大切な存在で、…大好きだった。
「ごめんね…。オレ、蛮ちゃんのこと、好きすぎて…気付けなかった」
好き、というのが普通の感覚になってたから。
だから、蛮ちゃんの事が好き、というのに気付くのに…随分時間がかかっちゃったね。
どんだけ鈍いんだよ、オレ…。自分に呆れる。
「…お前が謝ることじゃねェよ」
「うん…でも、ごめん」
「…ばぁか」
それでも、蛮ちゃんは笑ってくれる。
バカでも何でもいい。
蛮ちゃんと一緒にいれるなら、もう何だっていいよ。
「…ねぇ、蛮ちゃん。…あの時みたいに、して?」
今度は、優しく。
拒否なんてしないから…。
なんのことだなんて、言わなくったってわかるよね…?
蛮ちゃんは少し驚いたようにして、
「…お前の熱が下がったら、な。…これ以上熱くなってどうする」
と、ちょっと意地悪そうに笑った。
そして、オレの頭を優しくわしゃわしゃってした。
「えへへ…蛮ちゃん、大好き」
――今までも、今も、これからも。
約束するよ。
「あぁ…俺も。お前のこと、ずっと想ってた…」
それから。その日の夜にはオレの熱はすっかり下がっていて、
「良かったな」って蛮ちゃんが笑ってくれた。
一緒に晩御飯食べて、結構時間も遅くなっちゃってたから、泊まっていけば?って聞いたんだけど…
蛮ちゃんはちょっと困ったようにして、右手で顔を覆って「いや…また今度にさせてもらう」
って言って帰ってしまった。
…オレ、何か変なことしたかなぁ…?
ホントは、蛮ちゃんと一緒に寝たかったんだけど…我儘だったかなぁ。
次の日の朝。
今まで寝坊ばっかだったオレは、早く学校にいって、蛮ちゃんに会いたくって。
生まれて初めて早起きというものをしました。
起きたときは眠くて眠くてたまんなかったけど…
学校にいったら蛮ちゃんに会える、って思ったら、全然苦ではなかった。
いつもは慌ただしく通っている道も、時間に余裕があるからゆっくり歩いて。
学校の門も、ゆっくりくぐって。
――昨日この階段を走っていて、蛮ちゃんに会った。
…会ったっていうよりは、オレが蛮ちゃんにぶつかっちゃったんだけどね…。
思い出すように、これもゆっくりと登っていると。
「…ぁ」
上から聞こえる、聞き覚えのある足音。
どうやら、今日もこの場所で大好きな人に会えるみたいだ。
「蛮ちゃんっ、おはよう!」
蛮ちゃん、って呼んでもいいよね?
まだ生徒は誰も学校にきてないみたいだし。
「…おはよ、銀次」
ゆったりと、蛮ちゃんが階段を下りてくる。
そして、蛮ちゃんが顔をぐっと近付けてきて…。
ちゅ、と軽い音を立てて合わさる唇。
「…ハイ、おはようのキス」
「っ…!!」
――オレ、絶対今顔真っ赤だ…。
ホントに、誰もいなくてよかった…!
…学校で平気でこんなことをしちゃう彼に、ちょっと危険を感じながら。
今も昔も、彼には勝てそうにないなぁ…と実感してしまう今日この頃なのです。
終わり…だと思います(ぇ
今度は、普通の学校生活での蛮銀とかも書きたいなー、って思ってたりします。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
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