笑い方

 

 

オレの名前…?

――雷帝。

そう言ったら、…いきなりキスをされた。
今でも、その理由がわからなかったりする。
けど、何故か聞けないのも…本当の事。

 

「銀次」
「なん…」
…そこで、オレの言葉は途切れた。
理由は簡単。
美堂の唇で、口を塞がれたから。

「………っ…」
…長、い。
息…できない…。

「……っは、」
「大丈夫かよ…」
大丈夫、って。
あんたがしたんじゃないか。

「…お前、嫌がんねェのな」
「…?」
嬉しそうな、悲しそうな、不思議そうな顔。
口元は笑っていて、眉は寄せられている。
あの唇が、さっきまでオレに触れてたんだな…。
そう思うと、何だか複雑な気分になってくる。

「…普通、オトコにキスされたら嫌じゃねェ?」

…だったら、あんたはどうなんだ。
『されてる』んじゃなくて『してる』側のあんたは。

「…別に…。考えたこと…ない」
…ないわけじゃあないけど。
自分のことは言わないクセに、人に聞く美堂。
それがなんだか悔しくて。

美堂に出逢ってから、自分は…性格が悪くなったような気がする。
必要なかった感情が増えてきた。

例えば、…欲。
性欲とか、そういうのじゃなくて。

美堂に笑って欲しい、とか。
美堂の役に立ちたい、とか。

考えれば、美堂の事ばかりだけど。
それは…彼の傍にいるのだから、仕方がないことだと思う。

「…あっそ。まぁいいや…」
…素っ気ない。
彼を怒らせるようなこと…自分はしたのだろうか?

「…悪い」
「…は?」
どうやら、自分は謝るのが癖になっているみたいで。
彼の表情が曇ったりすると、どうしても謝ってしまう。

自分が何かしたのだろうか、とか。
彼の気を害するようなことを言ったのだろうか、とか。

美堂の世話になっているから、奴の機嫌に敏感になっているというのもあるけれど。
やっぱり、彼には笑っていて欲しい、と思ってしまう。

…そういう自分は、笑い方を知らないのに。
こんなのは、滑稽な欲なのだろうか。

「…怒ってねェよ。お前が謝んな」
そう言って、オレの頭をくしゃ、と撫でた。
…心地良い。
彼に頭を撫でて貰うと、すごく穏やかな気持ちになる。

「なら、良かった…。」
とくに、他意はなかった。
ただ、本当にそう思っただけ。
そして、それが勝手に口から零れてしまっただけ。

…なのに、美堂は…少し目を大きく開けて、驚いていた。

「…何だ」
「いや…。可愛いな、って思って」

……………。

「…今『可愛い』と聞こえたのは、オレだけか?」
「あ?『可愛い』って言ったけど?」

………………。

「…貴様…ふざけているのか…?」
「いやいやいや怒ンなって!」

『可愛い』などと言われて…怒らないワケがないだろう…。


「…笑えんじゃねぇか、ちゃんとよ」
「…え…?」

笑、う…?

「お前、綺麗系な顔かと思ってたけど…違ェんだな」
「オレは…笑ってなんか…」

…オレは、笑い方なんて知らない。

「何だよ、無意識か?お前さっきちゃんと笑えてたぜ?『なら良かった』って言ったとき」

…やっぱり、あんたじゃないか。

「なんだ、可愛い系なんだな…。これからも笑ってろよ、お前」

…あの時はただ、美堂の事を考えていただけ。それだけ。
やっぱり、オレに新しい感情をくれるのは…あんただ。

――身体が自然に、動いて。
気付けば、美堂の胸に額をくっつけていた。

「…っ、銀次…?」
…美堂の、息が詰まったような声。
悪い、美堂。困らせてる事はわかってる。
でも、もう少し。
…もう少しだけ、こうさせて…。


「美堂…好き。」


これも、おんなじ。
思った事が、ぽつりと。
勝手に、口から零れていっただけ。


その後、あんたは。
また、オレにキスをした。
今までのと違って、舌が入ってきたときと、あんたの顔が赤かったことには驚いたけど。

それでも、あんたならいいって…思えたんだ。

 

 

 

出逢ってから二週間目くらいのお話。美堂さんは、会った瞬間から銀次のことが好きだったのです。(黙

 

 

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