「おめでとうございますー!!一等の1泊2日、温泉旅行当選です!!」
…マジですか。
これは…銀次と二人っきりっていうことですか。
「わぁあー…!すごいよ蛮ちゃぁん…!」
「おい…はしゃぎすぎてケガすんなよ?」
そこは、以前にテレビでやっていた有名な温泉旅館。
温泉旅行など程遠かった俺らには、夢のそのまた夢のような話だった。
…が。
二人で買い物に行った時に、レシートを持っていくとなんたらかんたら…。
という福引で、俺らはその夢を掴んでしまったのである。
「蛮ちゃん蛮ちゃんっ!オレお風呂行きたいよ!」
「とりあえず落ち着け…。わかったから、まず荷物整理するぞ」
「うんっ!」
金運に見捨てられた俺らが温泉旅行…?
最初は、何かの罠か!?と戸惑ったものの、今の銀次の笑顔を見れば、罠だろうが何でもいい。
何が起こっても、銀次を守ってやる気持ちは揺るがない。
「なぁ銀次。今の時間は風呂たぶん混んでっから、先に飯食っちまおうぜ?」
「ごはん!!食べる!!」
いつも以上の輝きを持っている銀次を連れて、食堂へと向かう。
他の客は温泉に居るのか、やはりそこは空いていた。
「わー、美味しそうなものがいっぱいだよぅ…」
「すげぇな…。銀次、今のうちいっぱい食っとけよ?こんなもん次いつ食えるか…」
悲しいかな、こんな豪華な食事など、この機会を逃せば次にいつ食べれるかわからない。
こんな細っこい身体のドコに入るのだ、というほど食べる銀次は最早、
「どれを食べよう」というよりも「どれから食べよう」みたいな雰囲気をだしている。
「ま、たまにゃこんなのもいいか…」
普段、二人の金は蛮が扱っている。
だから、金の行先は必ずギャンブル系へと消えていく。
その為、銀次の空腹を埋められない…など、銀次に迷惑を掛けている事は明白。
…自覚はあるのだ。
「…蛮ちゃんっ!」
「…あ?」
はっとすれば、銀次が泣きそうな顔で自分を見ていた。
心配したよ、というのが顔に書いてある。
ちっとはこれからの金の使い方を改めようか…なんて考えていたら、
どうやら銀次の声に気付けなかったらしい。
「…悪い、何食おうか迷ってた」
銀次限定の笑みを浮かべ、頭をぽふっと撫でてやる。
「あのね、オレあれ食べたい!」
「おー、じゃぁ行くか」
普段食しているものの何倍もする御馳走をお腹いっぱいに食べた二人は、
部屋に戻ったあと、特に何をするわけでもなく寛いでいた。
「ふぅ…。美味しかったね、蛮ちゃん…」
「おぉ…あの肉はすごかったな」
食べ物に物凄い執着を持っている銀次は、ご満悦。
銀次の幸せそうな顔を見れた蛮も、ご満悦。
「…もうちょい落ち着いたら風呂でも行くか?」
「行くっ!えっと…ろてん、ぶろ?だっけ?あれ入りたい!」
「ああ、露天風呂な」
たぶん、露天風呂など銀次はゆっくり入ったことがないのだろう。
…一度奪還の仕事で行ったことがあったが、あれは…。
まさか、猿にやられるとは思っていなかった。
それに、裁縫コンビもいて銀次と二人きりではなかったし…。
今回こそは、と変な意気込みを持って、蛮は銀次を風呂へと連れて行った。
「わぁあー…!ひっろーい…。すごいよっ、外が綺麗だよー!」
「すげぇな…。あ、いきなり入んなよ…湯の温度確かめてからな」
「うん!」
銀次念願の、露天風呂にきたのはいいとして。
…これは…色んな意味で、ヤバい。
前に立って、景色を見る銀次の後姿、が…。
なんつーか…妙にエロい。
すっとした全体的なライン、とか。
しっかり筋肉はついてるのに…ほっそりとした身体。
腰に巻いてあるタオルが風になびいて、アブないところが見え隠れする…。
「ン…。気持ちいー…。ね、蛮ちゃんも入んないの…?」
「あ、あぁ…」
…ヤバい。
湯船に浸かった時の、銀次の気持よさそうな表情。
突っ立ったまんまだった俺を、見上げる瞳。
ホントにヤバいって、コレ…。
何とか動揺を押し退け、そっと湯船へと浸かる。
温泉の縁に両腕を乗っけて、身体の熱を誤魔化そうとした。…のに。
…まさか、蛮が自分のことでムラついていると考えもしない銀次。
ちょこん、と蛮の傍に寄って、自分から蛮の腕に収まるように寄り掛った。
銀次としては、こんなスキンシップはいつものことで。
特に意識したわけでもなく、自然にしたことだった。
「…銀次…」
けれど、蛮としては…理性を断ち切るには十分な行為だった。
腕に収まっている銀次をぐっと引き寄せ、身体を密着させる。
「ん、ぁ…蛮、ちゃ…?」
必要以上に蛮の顔が近付いたのを不思議に思い、銀次は蛮を見る。
…どうしたの?
そう、問いかけようとした瞬間。
熱い唇が、重なった。
「ふ、ぁ…、蛮、ちゃ…ぁ…」
重なるだけで、一旦離れた唇。
それを、もう一度キスをしようとしたとき…。
「…貴方という人はっ…美堂蛮!!」
広い風呂場に響いた、美しくも張りのある声。
…まさか。
「…テメェェェ…裁縫コンビに遠当てヤロぉぉぉぉ!!!!!」
扉の方へ視線を向けると…
絶対にあってほしくなかったこの状況。
美しいはずの顔を思いっきり歪めて怒っている花月に、
後ろで『またか…』という風に溜息をつく十兵衛に俊樹。
「カヅっちゃん!?十兵衛、雨流!?」
「テメぇらぁぁぁ…何しにきてんだぁぁ…!」
銀次との二人っきりの時間を邪魔された蛮は、爆発寸前。
「ふふ…貴方が銀次さんのコトを襲うんじゃないかって、僕たちで後をつけ…」
「花月、それはストーカーだぞ」
「筧…やめとけ」
「余計なコト言わないの、十兵衛!!銀次さんを守るために僕たちは、」
「花月…もう何も言わない方が…」
「筧…お前ももう何も言わない方が…」
「よし銀次、今のうちだ、三バカカラスは置いてくぞ」
「う…うん…」
十兵衛を絃で吊り上げようとする花月を、どうにか阻止しようとする俊樹。
それを見た銀次も、さすがに…仲裁のしようがなかった。
「チッ…。何なんだよアイツら…人がせっかくいい雰囲気にもってったっつーのに…」
「まぁ蛮ちゃん…。その、なんて言うか…」
「あ?」
部屋に戻る途中、下を向いて言葉を濁らす銀次。
「…お風呂じゃなくても、…えっちなこと、は…できるんだし…」
「銀次…」
…蛮としては、結果オーライ。
風呂でシてみたいという気持ちもあったが…
銀次を抱けるならば、どこでもいいのだ。
「んー…!帰ってきたね、蛮ちゃん!」
「おー…。なんつーか、食い物がメインだったような気もしないでもないがな…」
…まぁ、銀次からのお誘い(?)も聞けたし、満足っちゃあ満足。
…あの後、三バカカラスがどうなったかは知らないケド。
「温泉も気持ち良かったし、ご飯も美味しかったし!また行こうねっ、蛮ちゃん!」
ぱぁっ、と効果音でもつきそうな勢いで微笑む銀次に、『金があったらな…』なんて、現実的なことも言えず。
今だけは、旅行の余韻に浸っておこう…。
そう思い蛮は、そっと銀次を抱き寄せた。
キリ蛮を踏んでくださった、たまき様! ど、どうですかね…ご希望に沿えましたでしょうか…;
温泉旅行に行く蛮銀、って私も一度は書いてみたいシチュだったので、書いていて楽しかったですv
素敵なリク、ありがとうございました!
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