Prisoner 2

 

「ちょっ、何すんですかっ…!や、痛…!!」
とてもこの細身からは想像のつかない物凄い力で、両腕を頭上に纏められる。

「やっ、赤屍さん…!何のつもりっ、」
ダンっ、とそのまま後ろの壁に抑えつけられ、赤屍さんの身体と壁に挟まれ身動きがとれない。
抵抗しようとするけど、腕は掴まれてるし、足の間に赤屍さんが入り込んできていて動けない…。どうしよう、蛮ちゃんっ…!

「クス…そんなに怖がらなくてもいいんですよ…ただ少し、実験をさせてもらうだけですから…」
…その実験が怖いんですけどっ!!
声には出してないけどたぶんオレの顔でわかったらしく、赤屍さんはまたも楽しそうに笑っている。

…オレは何にも楽しくないんですけど…
状況は掴めないし、赤屍さんは怖いし…。
どうすればいいんですか蛮ちゃんっ…!

「また…美堂クン、ですか…?」
「え…?」
上の方から降ってきた、少し寂しそうな赤屍さんの声。
…初めて聞いた…彼のこんな声…

「また美堂クンのことを考えているのですか、と聞いたのですよ。…深くは考えないでください…」
もう、普段の彼に戻っていた。
今の表情からはもう読み取れなくなってしまったけど、確かにさっきの彼の様子はいつもと違った…。
「赤、屍さん…」

「さて…と…」
元に戻った赤屍さんが、ポケットを片手で漁りながら言った。

「…?」
すると、お目当てのものを見つけたのかポケットから手をだした。
その手に握られているのは、…包装された、白い錠剤らしき薬…。

「な、んですか…?ソレ…」
「クス…なんでしょうねぇ…」
…元々まともな返事が返ってくる、なんて期待してないけど…
人に使う薬ぐらい、教えてくれたってイイんじゃぁないんですか?赤屍さん…

色んな意味でまた出てきそうになった涙を必死で引っ込めながらそうツッこみそうになった。
でも、赤屍さんはツッこんではいけない相手だ、と思いとどめ、心の中でにしておいた。

「少し…失礼しますねv」
微妙に嬉しそうな音色で、彼がそういった。
よく聞こえなくって、聞きなおそうと思った時。

いつもの蛮ちゃんとは違う、冷たい唇がオレの唇に触れた。

 

「はっ、はぁっ…」
こんなに必死で走ったのは、久し振りかもしれねェ…。
そう思うぐらいの勢いで、銀次を探し走り回っていた。
先程よりは、確実に銀次に近づいている。
気配が、すぐ傍にある…。それで少し安心したが、銀次の姿を直接この瞳に映すまでは油断してはいけない…。

「っ、」
ばっ、と左側の道路を見る。
一瞬、銀次をすぐそこに感じた…。誰もいないが、俺が銀次の気配を間違えるわけがない。
「こっちに、いるのか…?銀次…」
俺はすぐに左に続いている道路に沿って、再び走り出した。


「んぅっ…!?」
冷たい唇の割に熱い舌が割り込んでくる…。
怖い…!や、蛮ちゃん…!!

「っぁ…、」
何か…液体が流れ込んでくる…!
「ん、ふっ…」
飲みたくない…のに、息ができなくてつい唇を開けてしまう。
その間に飲み下してしまう。

「っく…」
こく、と音がしたのを確認したのか、赤屍さんが唇を離す。

「…すいませんね、手荒なことをしてしまいまして。…でも、」
「っ、うるさいッ!!」
戦闘の時以外に使わない位の電撃を思いっきり発する。

「…」
それを軽々と交わしてしまう赤屍に、さらに苛つき…憎しみのようなものが募る。
「あっち行け……オレに近づくなぁッ!!」
地面に黒いシミがぽたぽたとできている。それを見てから、自分が泣いているということに気づく。

「……では、また…」
そう言って、赤屍は去って行った。
だけど、赤屍の姿が見えなくなっても悲しくて悲しくて。
蛮ちゃんを裏切ってしまった、と。

「ぅっ、あ…っく、ごめ…、ゴメンなさ…!蛮、っちゃ…!!」
ひたすらに、謝った。

ただただ、蛮に申し訳なくて。
会いたいのに、会いたくない。
今すぐ蛮に抱きつきたいのに、自分にそんな権利があるとは思えない。
そんな二つの矛盾した心がゆらゆらしている。

お願い、今はこないで。
(お願い、今すぐここにきて、)
お願い、今はオレに触らないで。
(お願い、今すぐオレに触って、)

今すぐ貴方をこの瞳に映したいよ…。

「っ…蛮、ちゃ…」
嗚咽が止まらなくて、声が上手くでない。

「蛮ちゃん…!!」

「っ銀次!!」


え………? 


「ば、」
「銀次…!良かった、いた…!!」
曲がり角に立っていた蛮ちゃんがオレの方へと走り寄ってきて、地面に座っていたオレの身体を正面から抱きしめた。

「っ、!」
「…ぇ、」
目の前にある蛮ちゃんの肩を、やんわりと押す。
…抱擁の、否定。

いつもなら、すごく嬉しい。蛮ちゃんから抱きしめてくれるなんて。
だけど、今はだめだ。素直に喜べないよ…!
こんな、赤屍に触られたカラダ。
ただキスをしただけ、と言われるかもしれない。

だけど、やなんだよ。
蛮ちゃん以外にキスされるなんて…。
キスだけでも、やなんだよぉ…!

蛮ちゃんが小さく驚きの声を上げる。
…そうだよね。いつもオレから抱きつくぐらいだもんね。
ゴメンね、自分勝手で…。
ホントがオレだってこのまま抱き合ってたかったよ。

だけど…

「ゴメ…蛮、ちゃ…」
それしか言えないよ…。謝ることしか、できない。
少し離れた蛮ちゃんの顔が、急に険しくなる。

「…どういうことだ?…俺に触られたくない、ってか?」
いつもの優しいのとは違う、声だけで相手を震わせることができそうなくらいの低音。
「…ごめん…ごめんね、蛮ちゃ…」
どう伝えればいいのかわからない。

 

 

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