きっと、蛮ちゃんは。
オレの気持ちなんて、何にも分かってないんだ。
「銀次…おい銀次!」
「ん…なぁに?」
「おい…あれ見ろ」
――ビラ配り中。
蛮ちゃんとちょっとの距離をあけてビラを配っていたら、蛮ちゃんが話しかけてきた。
それも…真剣な感じで。
蛮ちゃんが指をさした方を見てみると…
そこには、乳のボリュームが半端ない綺麗なお姉さん。
ヘヴンさんには劣るけど…それでも結構目立っている。
またか…と、小さく溜息を洩らす。
…こんな時、オレが小さく傷ついてってることなんて蛮ちゃんは知らない。
「なんだよ?興味ねぇのかよ?」
…ありますよ。
だけど…オレの心は、違う人に向かってるんだからしょうがないじゃない。
どんなに綺麗な人を見たって、…まぁ多少はドキドキするけど。
目の前に、貴方がいるんだから…他の人なんて映らないよ…。
「あー…行っちまった…あーゆーのが依頼にきてくれりゃぁいいのにな」
そうだね。
そうすれば、きっと蛮ちゃんは嬉しそうな顔して…喜ぶんだろうな。
「…銀次?」
「…ぇ?あ、何でもないっ!すごかったねー、オレ鼻血でるかと思った!」
「ははっ!」
…なーんて。
嘘に決まってるじゃない。
…蛮ちゃんのバカ。
その日は、結局一つも依頼は来ず。
HTへ寄り、皆と話してたら…気付けば、夜になっていた。
そしてそのままスバルへと戻った。
「はぁ…」
なんか…疲れたな…。
まったく、オレの気なんて知らずにこの人は…。
隣でくーくー寝てるしさ…。
幸い、あっち側を向いて寝ていてくれている。
…別に、キスをしたい、とか。
そういう好きなんじゃない。
ただ、…ホントにスキなだけ。
「…無理、かなぁ」
そもそも男同士だし。
オレの気持ちが、一般的に…変わっているだけ。
「何がだよ?」
――――え。
「………起きてたの…?」
「まぁな…。で、何が無理なんだよ?」
…起きてるなんて思わなかった。
どうしよう…咄嗟に嘘がでないよ…。
「えっと…その、…好きな、人…のこと」
…大丈夫、だよね?
これくらい言ったって…気付かれない、よね?
「………ふーん…」
「……気にしないでね?」
なんか…色々探られそうな気がする…。
蛮ちゃんに聞かれると、何でも答えてしまいそうな自分が怖い…。
「…誰?」
「…秘密」
…いくらなんでも…ね?
これは、言えないでしょ…。
「――俺に隠しゴトかよ?」
「別に…そういうコトじゃないよ…」
――…言えるわけないじゃん…!
…早く、この空気から抜けたい…。
「…俺に言えってか?」
「え…?」
蛮ちゃんがいきなり、むくって起きて。
寝ているオレを見下ろすように。
…外の街灯が、明かりの無いてんとう虫くんの中に広がって。
蛮ちゃんの綺麗な紫紺の瞳をもっと美しく魅せて…。
「――…俺に…好きだって言わせてぇのかっつってんだよ…」
表情はそのままに。
だけど…瞳の奥に、欲望が見え隠れしているのがわかる。
「え…蛮、ちゃ…?」
「お前は違うのかよ…?」
…なんだ…、バレちゃってたんだ…。
「…大好きだよ…蛮ちゃん…」
「…言うのおっせぇんだよ…」
綺麗に、蛮ちゃんの口元が歪んで。
…静かに、その口唇が近付いてきたところまでしか…オレの記憶はない。
「…うわぁ」
次の日、目が覚めると。
オレは、蛮ちゃんに抱きしめられていた。
「蛮ちゃん…」
――大好き。
「…うわぁってなんだよ…」
「へ!?」
突然、頭上から蛮ちゃんの声が降ってきて。
びくん、と肩を揺らしてしまった。
「嫌だったか?」
「えっ、嫌なんかじゃないよ!ビックリしちゃっただけで…!」
…気のせい、かなぁ。
蛮ちゃんの笑い方が…すごく優しい…。
「…キスしていい?」
「なっ…!!」
あ…甘い。
こっ、こんなの…オレの心臓が持たないよぅ…!
「んっ、ふ…?…ぁ…蛮、ちゃ…」
「…返事、くれないから」
そっと、唇が重なって。
――キス、されちゃった。
かぁぁぁっ、と自分の顔が赤くなっていくのがわかる…。
「…蛮ちゃんっ!」
「ははっ、電撃は勘弁な!」
…こんなやりとりさえ。
幸せだって思ってしまうのは…たぶん、蛮ちゃんの事が大好きだから。
…あ、蛮ちゃん。
ちょっと、口には出せないけど。
ギャンブル好きで女好きの計画性無しなお金の使いかたをしちゃう、
どうしようもないトコロも…大好きだからね?
展開が急すぎたような気もしますが…;大丈夫でしょうか、れい様!
何かご感想など頂けると嬉しいです。
素敵なリク、ありがとうございました!
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