大好き

 


コイツが俺に言う「大好き」だなんて、
捨てられたくなくての機嫌取りだと思ってた。

大体、俺は人にそんなこと言われるような人柄じゃねぇし。
実際言われたこともねぇし。

…「天野銀次」以外には。

 


「美堂くんー!好きー!!」

ドスッ。
鈍い音がした後、蛮は銀次の頭を殴った。

「テメェ…!いってぇんだよ、タックルしてくんな!」

銀次が飛びかかってきた勢いに負けた蛮の身体。
腹の辺りにしがみついている銀次を、どうにか離そうとするが…。

「やだぁ!このままがいいー!」
「ふざっけんな!!」

――何が悲しくて、この俺様が16のガキ…、
しかもオトコなんかに抱きつかれなきゃならねェんだ!

「離せっつの!」
「やぁ!美堂くんー!」

…訳がわからない。
何故俺がこんなのに好かれているのか…。
俺はコイツに懐かれるようなコトをしたのか?
…思い当たる節は、あの無限城の件だけ。
しかしそれにしても、これは…。


「んでお前はそうすぐに抱きつくんだよ!」
「だってぇ…、美堂くんのこと大好きなんだもん…!」

――答えになってねェよ!!
しかも、お前俺以外のやつにもひっついてるじゃねぇか…。
『大好き』だなんて、他のやつにも何度も…言ってるじゃねぇかよ…。

「…離せって…」
「……美堂、く…」


――俺は、いらない。
そんな上辺だけのコトバなんざ、いらねぇんだよ…。
それに…『大好き』だなんて。
俺が言われるワケねぇんだよ…。


「…何で俺なんだよ…?」
「え…?」

自然とその体勢から、上目使いで見てくるカミナリ小僧。
そんな状態のヤツにさえ、心を乱されている自分が…悔しくて。


「他のやつでも別にいいんだろ?…離せ」


…自分でも、ガキ臭ェこと言ったな…なんて。
思ったけど、どうしても止められなかった。
吃驚したような、泣きそうな。
そんな顔した小僧を見ても…止まらなかった。

「俺は慣れ慣れしくしてくる奴は嫌いなんだよ…」
「っ…」

…そっと、回していた腕を解いて。
姿勢を元に戻して、下を俯いた。
そんな小僧の顔を見るのが…怖くて。


――嫌いじゃない。
本当に嫌いだったら、こんなことされた瞬間蛇咬でぶっ飛ばしてる。

でも、そうしなかったのは。
…認めたくねぇけど、コイツは俺にとって…大切なヤツだから。
どうしても護りたくて、傷つけたくなくて。
他の野郎になんか奪われたくなくて。
…ずっと、俺だけのモノでいてほしくて。

そう思っているのに、…傷つけてしまった。
『嫌い』だなんて、思ってもいないことを吐いてしまった。

どうしても耐えられなかった。
…他の奴と一緒にされているのが。

お前の『大好き』の特別でいられないのが、耐えられなかった。

「…小僧、」
「ごめんなさい…!」

ばっ、と顔を上げた小僧。
…頬には、涙が幾筋も流れていて。
――俺が、泣かした…。

「…なんでお前が謝るんだよ」
「だって…。…ごめんなさい、嫌だったよね…」

――だから、なんでお前が謝るんだよ…。
謝んなきゃなんねぇのは俺だろ…?

「…おれ、美堂くんのこと…本当に大好きなの…」
「……」

「誰でもよくなんかないよ…?美堂くんだから、なの…」
「…小僧」

「皆のことも好きだけど、美堂くんは特別なの…!」
「っ…!」

――『特別』。
他とは違う、俺だけへのコトバ。
それが小僧の口から出た瞬間、身体がアツくなるのがわかった。

言いながら、ぽろぽろと涙を零す小僧。
その頬に手を滑らせた。

「…美堂っ…くん…?」
視線を俺に合わせて、真っ直ぐ見つめあう。
どうも気恥ずかしかったけど…琥珀色の瞳を見ていたら、落ち着いた。

「…ごめんな?悪かったのは俺だ…」
「違うよ…、オレが調子乗っちゃったから…」
「いいや、お前は悪くねぇよ」
「美堂くん…」

自分でも驚くくらい、自然な笑みが浮かんで。
…今までにないくらい、気持ちが穏やかだった。

…涙が零れている銀次の目元に、そっと唇を寄せて。
舌でその涙を拭った。

「っ美堂くん…!ん、ぁ…」
「泣くな…銀次」
「…!」

初めて、その名前を呼んだ。
ずっとずっと、本当はそう呼んでやりたかった。

「美堂くん…っ」
「名前で呼べ…」

ちゅ、と唇を移動させながら言葉を紡ぐ。
それをくすぐったそうに受ける銀次が…可愛くて。
銀次の唇に誘われるように…キスを重ねた。

「んっ…!ふ、ぁ…」
「銀次…」

上手く息継ぎのできていない銀次のために、
少し間隔を空けながら唇を合わす。
その合間に「銀次」と囁いて。

「ふぁ…っ、んぅ…」
「…銀次」

やっと唇を離してやると、銀次は俺の身体にしなれかかった。
顔を真っ赤にして、息を荒くさせている銀次の耳たぶに、唇を押し付けて。

 

「…銀次、好きだ…」

 


――追い打ちをかけるように、優しく囁いた。
 

 

 

アーリーって楽しくないですか。二人の初々しさがツボなんですけど…。

 

 

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