―――嫌だ。
俺から離れてくなんて…絶対許さない。
…銀次。
「……」
「…ねぇ…蛮ちゃん…?」
蛮ちゃんはさっきから、一言も話してくれない。
ムスッとして、眉間にシワ寄せて。
…すごく怖い。
オレなにかしちゃったのかな…?
…ううん、何も思い当たらないし…。
なんでだろう…。
…いつもみたいに、いっぱいお喋りしたいのに…。
「…蛮ちゃ…。っ、!?」
今まで何も行動を起こさなかった蛮が、銀次の両腕を右腕で力強く掴んだ。
…冷たい表情で、銀次を射抜くように見つめるのだ。
「な…に…?いたいよ…蛮ちゃん…」
…ギリギリと、毒蛇が宿った右腕で掴むから…。
いつものような優しさが、今の蛮にないのはすぐにわかった。
「…痛い、だって?…当たり前だろ?逃がさねェようにしてんだから…」
――すっ、と目を細めて。
整った唇を片方だけ歪めた。
「ぁ…っ、蛮ちゃぁ…?」
…こわ、い。
真っ直ぐな蛮の視線を、こんな恐怖に感じたことはない。
「…お前さ…自分が誰のモノかわかってんの…?」
「え…?」
――最低な質問。
聞いた直後、蛮は後悔した。
銀次が泣きそうな顔をして…問いの意味がわからない、と聞き返す。
「…今日の昼」
ぽつり。
なにかのヒントのように、蛮が呟く。
けれど、それだけでは銀次には伝わらなかった。
「ごめん…なさい…。なんのこと…?」
「…わかんなくても別にいい」
「…蛮ちゃん…?」
ぐっ、と座席のレバーを引いて、シートに完全に銀次を押し倒した。
驚いている銀次の耳元に唇を寄せて、…そっと囁いた。
「……お前のカラダに教えるだけだ」
「ぁっ…!」
言い終わると同時に、銀次のシャツを引き裂いた。
銀次の小さな喘ぎも、今の蛮にはただ煽っているように聞こえるだけ。
…恐怖と、驚きと。
二つが混ざったその声が、蛮に助けを求めていることにも気付かずに。
「ぁ、やっ…!こわいよ、蛮ちゃん…!」
――怖い、だと?
そんなの…俺の台詞だ。
わかるか?お前に。
「ンなの、俺の方が怖ェよ…!」
「――…!?」
…銀次が目を見開いた。
そりゃ無理はない。
たぶん、俺がこんな風に取り乱した所を見るのは初めてだろう。
――…だけど、止まらない。
「お前は…誰が好きなんだよ?」
…失くしたくなくて、大切で。
こんな気持ち初めてで、すっげぇ怖くて。
そしたらお前も俺の事が好きで。
やっと手に入った…と思ったら、お前の周りには邪魔なヤツばっか。
「オレ、は…!蛮ちゃん、しか…ぁ…っ」
いつ誰に奪られちまうかわからないような状況で。
お前は自分の身の危険も感知できないから、いつだって油断できなくて。
「だったら俺だけ見てろよ…!他のヤツなんか…見てんじゃねぇよ…!!」
…でも。お前が好きだって言ってくれるから安心できてたのに。
「蛮、ちゃぁっ…」
なのに、何だよ…今日の。
お前は気づいてなかったかも…っつか、完璧に気づいてなかったよな。
俺、ずっと見てたんだぜ?
「気づけよ…っ…」
…お前が、クソ屍と一緒にいたの。
まるで、俺だけが好きみてぇじゃねぇか。
…そんなの…許せっかよ…。
もうこのままヤってやる、と思って襲おうとしたとき。
…いや、実際もう襲ってるけど。
「っつ…!?」
――銀次が、蛮にキスをした。
掴まれていた両腕を振り切って、蛮の首に腕を回して。
…いつもは、頑張ったって可愛らしいキスしかできないくせに。
慣れない…ディープキスなんてして。
うまくできなくて、舌もカラダも震えて泣いて。
…こんなのされちまったら、さっきまでの怒りも…嘘のように吹っ飛んだ。
「ふぁ…!ん、ぅっ…」
――ぴちゃ…。
震える銀次の舌を絡め取って、歯列をなぞる。
それだけで銀次はぴくん…と反応して、蛮の背中を掻き抱いた。
「ん、んっ…。は、ふぁ…」
銀次の顔の横についていた両腕を、座席のシートと銀次の身体の間に滑り込ませて。
強く抱きしめたら折れてしまうんじゃないか…と思うくらい細い腰を支えた。
すると、俺は身体をすべて銀次の上に乗せる体勢になる。
それが苦しいのか、キスの合間に作ってやる息継ぎの銀次の呼吸が荒い。
…それでも、俺を受け入れるお前に。
俺はまた、欲情した。
* * *
「ン…っ」
「…起きたか…?」
陽の光に透けて輝く金糸をそっと撫でる。
昨日はまた随分と無理をさせてしまったから…。
「ぁ…蛮ちゃん…」
とろん…とした瞳で見つめてくる銀次。
…可愛い。
なんて素で飛び出しそうになって、危ない…と口を噤む。
「ん。おはよ」
優しく微笑んでやれば、ふにゃ…とまた銀次も柔らかく笑う。
「あの…ね、蛮ちゃん…」
「ん…?どした?」
――まだ動けないからちょっときて、と。
そう言われて、顔を近づける。
耳元でこしょこしょ…と話されて、大人しく聞いていれば。
…オレが大好きなのは、貴方だけ…。
だから、信じてて?
何があっても、貴方から離れないから…。
もし離れてしまっても、迎えにきてね?
――…なんてね。
と頬を赤らめたお前に、また襲いかかったのは言うまでもない。
6789蛮を踏んでくださったヨルガ様へのリク小説です。
美堂さん嫉妬しすぎましたね…。す、少しでもリクに近づけていたらいいなぁ…。
ヨルガ様、キリ蛮&リクありがとうございました!