気になる噂

 


「え…?」

――うそ。
ねぇ、蛮ちゃん…それ本当…?

 


―気になる噂―

 

 


「ねぇねぇっ、あの美堂くん!あ、お兄さんの方ね!彼女できたらしいよー!?」
「えー!!マジでっ!?やだー、あたし狙ってたのにぃ!」
「マジマジ!相手の子、『工藤卑弥呼』だって!」
「えっ、よりによってあの男らしい!?」
「そーなの!」
「ていうか卑弥呼って彼氏いたんじゃなかったっけ?」
「あー、鏡センパイ?あたしもそう思ってたんだけど…」
「美堂くんと付き合ってるってことは違かったんだねー」

 

 

…思わず、立ち止まって。
同じクラスの子たちの会話を全部聞いてしまった。
どこからその噂が入ってきたのか…とか、誰から聞いたのか…とか。
色々気になることもあった…けど。

――蛮ちゃん…卑弥呼ちゃんと付き合ってるの…?

卑弥呼ちゃんっていうのは、蛮ちゃんの小さい頃からの幼馴染で。
本当はオレとも幼馴染…のはずなんだけど。
なんでもオレは卑弥呼ちゃんになぜか嫌われちゃってるみたい…で。
哀しいことに、自信をもって「仲がいい」とは言えないのです…。

…って、そうじゃなくて!
今の噂、ホントなの!?

「あっ、ねぇ!今の話…それ、本当…?」
「銀ちゃん!うん、本当らしいよ?…っていうか、銀ちゃんのお兄さんのことでしょ?」
「お兄さんに聞く方が確実なんじゃない?」

「そ、そうだよね…」

た、たしかにそうなんですけど…。

 

――聞けないよぉぉ!!

 

 


「ど…どうしよう…」

とりあえず落ち着くために席へ戻って、一人考えてみる。
ここはハッキリと聞いちゃうべき?
それとも、地道に他の人に色々聞いてみるべき…?

蛮ちゃんに内緒でこそこそするのは嫌だけど…
本人から聞くのも…やっぱり怖すぎる。

…ていうか、オレ…なんでこんなにビクビクしてるの…?
蛮ちゃんとオレは、ただの…兄弟で。
オレは…蛮ちゃんのこと、大好き…で…。

 

それ、だけ?

 

ううん、違う…。
それだけじゃないよ…。
オレは、…兄弟として、じゃなくて。

…一人の男として、好きなんだ…。

 


「…う、わ、ぁあ…」

自覚すると、は、恥ずかしい…!
オレったら…よく今まで抱きついたりできてたなぁ…なんて思っちゃったり。
もし今蛮ちゃんに会ったとしても、今のオレにはできないよぅ…。

 

「…!!ちがうよっ、そういうことじゃなくて!」

ガタッ――…
思いきり、椅子から立った瞬間。

 

――ババッ、と周りの皆が一斉にオレを見た。
その視線にハッ…としながら、ごめんね、なんでもないよ!とその視線に返す。
忘れてた…ここ教室なんだよね!

そっと自分の口を手で塞ぎながら、もう一度椅子に座る。


…すき、好き。
蛮ちゃん、だいすき…。

そう思えば思うほど…あの噂が気になって。
もうハッキリ聞いちゃえよ、という心の声と…
聞いちゃったら気まずくない?
蛮ちゃんのことなんだから、逆にこっちが色々探られちゃうよー!
…っていう心の声。

――どっちに従えばいい?
…蛮ちゃんの本当のこと、知りたい。
…本当のこと、知られてしまうのは…怖い。

両方とも本当の気持ちであって、
両方とも…卑怯だ。

オレだけ蛮ちゃんのことを知って、オレだけ隠すなんて。
…卑怯だよ…ね…。

「はぁ……」

大きく溜息をつきながら、机に項垂れた時。
…ぽすん、と頭になにかがのっかって。

なに…?と思って首をひねると。

 

 

「――…ばんちゃ……?」

「おう。どーした?具合でも悪いのかよ?」

 


――蛮ちゃんが、いた。
楽しそうな笑みを浮かべて…オレの頭を撫でながら。
どうして?と思う前に、蛮ちゃんが口を開いた。

「…すっげぇ暇でよ。……お前がいねぇと」

「……!!」

…相変わらず、意地悪そうな笑いはそのまんまだったけど。
考えに考えて、ヘロヘロになってしまったオレの心には…
その言葉は、嬉しすぎて。

――ココは学校。
泣いちゃダメだ…って緩んでくる涙腺を引き締めながら、

 


「蛮ちゃんだいすき……」


と伝えた。

 

蛮ちゃんには、「急にどうした?…って、お前が急なのはいつもか…」なんて
軽く笑われてしまったけれど。
蛮ちゃんは、人の気持ちには敏感な人だから。
きっと、オレの言葉に含まされた本当の意味にも気付いているはず。


…気付いてくれてるよね、と願いながら。

あのね、さっき聞いたんだけどね……――


…と、オレは勇気を振り絞り、聞いてみた。

 


――…蛮ちゃんがどう答えてくれたかは、オレと蛮ちゃんだけの秘密なのです……。

 

 

美堂さんは他の人の目とか全然気にしないといい。(何
たぶんこの後美堂さんは銀次にちゅーを…(殴

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