Honey

 

「起きたか…?」
「ん…、おはよ…ござい、ま…」

――蛮の腕の中。
ゆらゆらと、あたたかい水に浮かんでいるよう…。
気持ちいい、まだこの中に漂っていたい…と
思う気持ちとは反対に、意識は少しずつ覚醒していく。
まだ軽い怠さの残る体を起こそうとすると、蛮に止められた。

「あぁ、まだ横になってていい…。昨日も無理させちまったしな」
「だっ、大丈夫ですっ…!」

あわてたように否定する銀次に、
くくっ…と低く喉を鳴らして。
寝ぐせであちこちには寝ている髪をふわふわと撫でた。

「…?蛮、様?」
「……蛮、でいいって言ってるだろ…?それに、敬語なんて使わなくていい」
「んにゃ…、でも…」

銀次は少し、困ったような顔をした。
「自分は蛮に従っている身なのに…」と。
――それが、蛮としては哀しかった。

…距離を感じてしまう。
主人と、飼い猫(?)という立場なのだから、
距離があるのは当たり前…なような気もするのだが。


――遠ざけられているように思うのは。
…オレだけ、だろうか。
主従関係だから、というだけではない。
何度行っても様付けで呼ぶわ、敬語だわ。
きちんとこの言いつけを守るのは、…情事のときだけ。
その時だって、オレが無理矢理ささえてるようなもんで。
…銀次が嫌がってるのは目に見えてるし。
それでも止めてやれないのは…。

それに、敬語を使わせたくない理由はもう一つある。
でも、それは…

 

「蛮にゃん…?」
「っ…!」

 

下から心配そうにのぞいてきた銀次に、…不覚にもドキッとしてしまい。
咄嗟に右手で顔を隠した。
…あ、危ねェ。
いつもは何度行っても「蛮様」と呼ぶのをやめないくせに。
…いきなり、「蛮にゃん」だなんて…。
犯罪並みに可愛いだろ…!!

あともう少しで、真っ赤になっているであろう顔を
マトモに見られるトコロだった…。

「…?」
「…悪ィ、なんでもねぇ」

頭に疑問符を浮かべている銀次に、小さいキスを送った。
…それに、小さな声を漏らしたのが聞こえた。

「…ぁ…」
「…銀次…?」

…きゅ、とシャツを握られる感触。
オレの手の半分もない銀次の手が、小刻みに震えている。
その手に自分のを重ね、問いかけた。

「どうした…?…キスされんの、嫌だったか…?」

今まで何度もしてきたヤツが言うセリフじゃないとわかってはいるが。
そんな顔をされたら…気になるだろ…。

…これで「うん」とか言われたらマジで傷付くぞ…。
つか泣ける。
モヤモヤとどうしようもないことを考えていると、銀次がやっと切り出した。

「ちがっ…!…よく…わかんない、けど…」
重ねた手に、ぽたり…と濡れた感触。
――なッ…泣くほど嫌だったのかよ!?

「銀…」
「おれっ…蛮にゃんのこと、大好き…なの…!」
「ッ…!」

…きっと、違う意味で言っているんだ、コイツは。
オレが抱いている「好き」とは…違う…。

「…それで?なんで泣くんだよ…」
「わっ、わかんな…。ひ、っく…」

 

――今までずっと、好きだって思ってた。
だけど、そんなことを言えるような立場じゃないってわかってたから。
ましてや、両想いになれるなんて…
思ってもいないし、悲しくなるから期待もしてない。
…オレを抱くのだって、近くにいて手軽だろうから、って。
ちゃんと気持ちにケジメ…つけてた。
なのに…。

「蛮にゃ、が…」

――オレに優しくするから。
優しく笑ってくれるから。
優しい瞳で見つめてくれるから。

 

…止められなくなってしまった…と。

 


途切れ途切れに、色々と間違った日本語を使って
伝えられる銀次の気持ちを拾うのは大変だったが、
…全部、一つ残らず受け止めてやりたかった。


こんな小さな体に、こんなたくさんの想いを溜めていたのか…と。
吐き出せるタイミングを作ってやれなかった自分を、
…なに一つ言葉にしてやらなかった自分を恨んだ。


…すべて言い終えてから、銀次は本格的に泣きだした。
少しずつ大きくなる嗚咽につれ、揺れる体を引き寄せた。
ぴくぴくと震え、垂れた耳に唇を寄せて。
少し下に唾液を絡ませながら、毛を舐めあげた。


オレが流させてしまった涙を、早く止めてやりたくて。


「にゃぅうっ…!んゃ、くすぐった…ぁい…」
「ん…。ほら、泣き止めって…」
「ふゃ…ん…!」

オレが喋るたびに息がかかるのか、さっきとは違う震え方をする。
…あぁもう…可愛すぎるっつの!!
…そして、さっきの告白。

「にゃぁ…ん!蛮にゃっ、もう泣いてないよぉ…!」
「…よし」


…自分でも、口端が嫌につり上がったのがわかった。


「お前、…オレのこと好きっつったよな…?」
「っ…!ご、ごめんなさ…」


――なんで謝るよ、バカ銀。
…そうか、…なんだ…。
銀次は…オレのことを…。
距離を感じていたのは…、距離を作っていたのはオレのほうか…。

銀次に溺れるのが怖くて。
いつか、銀次が離れていっちまうんじゃねぇか、ってビビって。
冷たく接して、それでも「蛮様」っつってくっついてくる銀次に…甘えて。

「バカなのは…オレのほうか…」
「…?」

まだ目尻に残る雫を、舌で舐めとって。

 


「…よく聞けよ?――…オレもな…」

 


…その後、顔を真っ赤にした銀次があまりにも可愛くて。
思わず(?)襲いかかったのは言うまでもない。

 


――…なぁ、早く泣き止んで。
いつもの蜂蜜みてェな笑顔…、オレだけに見してくんねぇ?
…愛しい銀次。

 

 


…わー!思ったよりもすごく恥ずかしいモノに…!
なんだか前回の美堂さんと銀次よりもずいぶん甘い感じになってますね(笑)
前回はエロメイン、今回は甘々メイン!みたいな感じで!←
リクをくださった癒月様、ありがとうございました!
残り2つも頑張ります!笑

 

 

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