Attach

 

「ちょっと…美堂くん…」
「んだよ…」
「んだよって…あの…」

近いんだけど。

「しょーがねーだろー?仕事中なんだからよォ」
…だからって。
「…近すぎやしませんか…?」
「んなコトねェよ」

二人、セーラー服を着て一つの個室のトイレに籠りきり。…そしてオレは、何故か美堂くんに抑えつけられている。
それも、オレが便器の上に座り、オレの足の間に美堂くんが入り込んでる状態。

「…まぁ、セーラー服はしょうがないと思うよ?オレも」
「だろ?」
「うん…だけど、この体勢はおかしいと思うな、オレ」

オレらは女子高に潜入していた。
依頼は、ある女子高生から。
「私の携帯を奪り返してほしい。同じクラスの女の子に取られて困っている。
あの携帯には、先に逝ってしまった家族との思い出がある」、と。

美堂くんは、「高校生がンな金持ってるワケねーだろが」と言って断ろうとしてた。
だけど…依頼人の女の子の瞳には涙が浮かんでいて、必死に涙を零すのを堪えていた。

どうしても、彼女の依頼に応えてあげたくて。
美堂くんにお願いして依頼を受けてもらったんだ。

「大体オメーがこの依頼受けようっつったんだからよー。これぐれェ我慢しろや」
「う、うん…そうだよね…」
確かにそうだけども。
だからって…この広めのトイレの中で、こんなにひっつく必要はないと思うんだけどな…。

なんていっても、ここの女子高は有名らしい。
校舎はもちろん教室、トイレも広く、全てが普通の学校の二倍はある。
だから今籠っている個室も…ゆうに三人は入れる。
なのにどうして二人でこんなにぎゅうぎゅうにつめこむ必要があるのかなぁ…?

俺の目の前に座っている美堂くんの後ろには、空いているスペースが見え見え。

「く、くるし…」
嫌がらせなのかなんなのか知らないけど、美堂くんがオレの首に腕を回してきた。
「美堂くん…すっごい苦しいんだけど…」
美堂くんの背中をぽんぽん、と軽く叩きながら息苦しさを訴える。
だが、返ってくるのはこんなフザけた返答ばかり。

「…寒ィから。こーすりゃ少しはあったけェだろ」
…ココ、冷暖房完備なんですけど。
「…美堂くん…」
もう一度訴えようと思ったが、少し前に聞いた美堂くんの過去を思い出して…
やめておいた。

美堂くんはずっと一人で…
寂しい思いをしていて…
温かいものを、知らないんだ。

そう思うと、オレに甘えてくれる美堂くんがすっごく可愛く思えてきちゃって…
さっきは美堂くんは剥がすために背中に置いておいた手を、甘やかすために優しくさすった。

「……」
肩口に顔を埋めている美堂くんから、ふ、と息を吐きだす声が聞こえた。
安心…してくれてるのかな…?
そうだったら、嬉しいな…。

気づけば、いつの間にか20分くらい経っていて。
この抱き合った姿勢が、すごく自然な体勢に思えてきて、このまま離れたくない…なんて思っていた。
だけど、やっぱり恥ずかしくて。

「美堂くん…えっと…そろそろ、離れよ…?」
オレはてっきり、美堂くんから離れて行くもんかと思っていたから…
とても言い出しにくかったけど。
だけど、仮にもお仕事中だし…。

「……」
「美堂、くん?」
聞こえなかったのかな…?
美堂くんは黙りっぱなし。

「ね、美堂くん…」
「…小僧、お前は…」
訪ねようとしたオレの声を遮った、美堂くんの低い声。
「え…?」
「…お前は…俺の、こと…」

「あの…美堂くん、それって…この依頼が終わってからじゃないとダメ?」
なんだかとても、言いにくそうだったから。
悪気とかまったくなくて、むしろ美堂くんのためを思って言ったことなんだけど…
逆効果だったみたい。

「…そーかよ。すぐに答えられないってこたぁ、嫌いなんだな?」
…はい?
ちょっと待って、答えるも何も…今オレが止めて…

「あ、あの、美堂くん…」
「ハッ、そんなもんかよ…」
オレにもたれかかるような恰好でいた美堂くんは、すっと身体を離す。
そっとその表情を窺うと、思いっきり眉間に皺が…。
…すっごい怒ってる…。

「気にすんな。別に深い意味はねェ。」
妙に淡々とした口調で、トイレから出ようとしている。
……なんか、激しく誤解してる?

「オラっ、テメェも早く出ろ!」
ぐいっと腕を引っ張られる。
まるで、オレが細かいことを聞く隙を与えないように。

「あっ、ちょ…美堂くん!待ってっ…」
なんだかよくわからない誤解を解きたくて、必死で美堂くんを止める。
「っ、うるせェ!!」

ダン、と壁に叩きつけられる。
同時に、唇に感じる温もり。

…え…?

ぬる、と温かいものが唇を割って中に入ってくる。

「っ、!?」
少し経って、自分が美堂くんにキスをされていることに気づく。
「んぅっ…ふ、ぁ…」

不思議と、嫌ではなかった。
でも……怒りに任せてキスなんて…されてるのかなぁ、って思うと。
すごく哀しかった。

「ふっ…」
あ、ダメだ…涙でてきちゃった…。
また美堂くんを怒らせちゃうよ…。

「……」
オレが泣いているのに気付いたのか、美堂くんがそっ、と唇を離した。
…だけど、すぐにまたキスをされた。
今度は、重なるだけの…優しいキス。

まだ涙は止まらなかったけど…。
素直に、美堂くんに身を任せることができた。
どれくらい、そうしていたのか。
流れた涙が止まり、頬に乾いた痕ができたころ。
美堂くんの唇が離れていった。

 

 

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