Valentine Love 2

 

「どした?今は甘いモン食いたくねーのか?」
「…ううん、食べるよ?」
…蛮ちゃんは、優しく抱き返してくれた。思わず頬が緩んだ。

蛮ちゃんは、オレの肩に手を回したまま、ソファへ向かう。
オレを先に奥に座らせた後、自分も横にどかっと座った。

…あれ?いつも二人の時は、向き合うようにあっち側に座るのに…。
お仕事の話の時は同じところに座るんだけどね?
蛮ちゃん、と声をかけようとしたけど…
オレが意識しすぎてるだけかなぁ、と思い直して留まった。
…だけど。蛮ちゃんは全然気にしてないのかもしれないけどっ…。

近い…!
近すぎる…!!

オレは奥側だから、横にズレてもすぐ壁にぶつかっちゃうし。
…せっかくできた間も、蛮ちゃんがこっちにもっときちゃって、その上腰に手を回して…
オレを自分の方へ引き寄せてしまう。

…やばい…耳もとに、蛮ちゃんの息が…!
…何を急に意識しちゃってんだろ。
自分でもよくわかんない。
…ただ、はっきりしてるのは…オレ、蛮ちゃんの事…好きなんだ。

たぶん…さっきの女の子達を見て、蛮ちゃんを他の人にとられたくない、って思って。
それで変に意識しちゃってるんだ、オレ…。

きっと、『相棒』の枠とか越えてる。自分の思いは。

――どうしよう…。
こうもはっきり自覚しちゃうと、困るな…。
いつも通りに振る舞えない。

「…銀次?」
急に大人しくなったオレを不審になったのか、
それともチョコを前にしても静かなオレを変に思ったのか…
蛮ちゃんが斜め上から顔を覗き込んできた。
目の前に落ちてくる、蛮ちゃんの黒いサラサラした髪。
そして、目の前にある…綺麗な、紫紺の瞳。

――ドクッ…
心臓が…壊れる…!
ッ!!」

ドン――…

「ぁ…」
気付けば、オレは蛮ちゃんの肩を押し戻していた。
…蛮ちゃんが驚いた顔をしているのを見て、ハッとなる。

「蛮、ちゃ…」
―――やってしまった。
…蛮ちゃんを、拒んでしまった。そんなつもり、全くないのに…!

頭が真っ白になって言葉がでない。
蛮ちゃんも何も言わない。
…暫しの沈黙。
どうしよう、どうしよう。
蛮ちゃんのこと、好きなのに…!
―なんて最悪なバレンタイン。…オレは男だから関係ないけど…。

あぁ、こんなときにこんなこと…考えてる場合じゃないよぉ…。
頭ではわかってるのに、きちんとした言葉が浮かんでこない。

「あ、あの…蛮、ちゃ…」
怖い。…蛮ちゃんの瞳を見るのが怖いよ…。

「………」
蛮ちゃんは黙ったまんま。
そんなオレらの沈黙を遮ったのは…
以外にも波児さん。

「銀次!お客さんだぞ」
この暗い雰囲気を思ってか、いつも通りに声を書けてくれる波児さん。

「ぁ…うん、今いく!」
咄嗟に返事しちゃったけど…オレにお客さん?って…誰だろう?
士度?カヅっちゃん?…だったら、わざわざお客さん、なんて言わない?

「…蛮、ちゃん…」
さっきの体勢のままでいる蛮ちゃんに呟く。
「…戻ってきたら、お話したいの…。聞いてくれる…?」
――好き。好きなの、大好き。
この気持ちを、彼に伝える。

「…あぁ」
なんとか返事をくれた蛮ちゃん。
…よかった。まだ口をきいてくれる…。

「…いってくるね、」
それだけ残して、波児さんのとこへ向かった。

「波児さん!何なに?お客さんって…」
カウンターに寄っかかって波児さんに尋ねる。
「…ほれ、そこ」
波児さんはそう言って、顎でくい、と扉の方を指した。
「…へ?あ、」

…そこにいたのは、この前、夜にスバルを抜け出た時会った女の子。
その日オレはなかなか眠れなくて、一人公園のブランコに座ってた。
そしたら、女の子の悲鳴が聞こえてきた。
何事かと思ってちょっと歩いてみると…
そこには、三人くらいの男の人に囲まれた一人の女の子。

…女の子の様子で、これが合意でないことはすぐに分かった。
泣いて、助けを求めて、でも誰も来てくれない。
そんな悲鳴だった。

「…なにしてんの?女の子に乱暴して。」
オレは無意識にその間に入っていた。
…間近で見ると、その子はとても整った顔をしていて…。
可哀想なくらいにその顔を歪ませて泣いていた。
その表情を見て、オレの怒りは増した。

「…こんなか弱い子に、こんなこと…。どうやら手加減は…無用だね?」
何故かその時、オレの気はいつも以上に荒れていて。
相手は普通の人間だ、ということを忘れかける勢いで電撃を浴びさせていた。

「…もう平気だよ!大丈夫?」
そこらへんにノびてるやつらを一瞥して、すぐに女の子に視線を戻す。

オレの電撃を見てか、自身が襲われたことにか。
どちらかはわからないが、その瞳を大きく開けて、オレを見つめていた。

「ぁ…だいじょうぶ、です…あの…貴方は…」
さっきまで溢れていた涙をぐ、と裾で拭い、女の子は聞いてきた。

「オレは天野銀次。奪還屋をやってるんだ!奪られたものは奪りかえす…奪還屋だよ!…立てる?」
一通り自己紹介をして、女の子に腕を伸ばす。

「ありがとう…。銀次…さん」
ゆっくりだけど、確かにしっかりと立ちあがる。
そして、花のような笑顔を浮かべた。

 

 

 

⇒3

Novel