Valentine Love 3

 

 

 「…強いね、君は…。…もうこんな時間に一人で外に出ちゃダメだよ?次からは気をつけてねっ!」
その笑顔を見て、オレも笑顔になる。
…きっと、この子はもう大丈夫。そんな笑顔だった。

「はい!助けてくれて…ありがとうございました!」
どうやらどこも怪我はなかったらしく、ふらつくこともなくその子は帰っていった。

その子の顔を見た瞬間、その時の記憶がフラッシュバックする。

「…あの時の…久し振り!元気?」
すぐにオレは駆け寄って、女の子に声をかける。

「はい!あの夜は…本当にありがとうございました!
奪還屋、と言っていたのを思い出して周りの人に色々と聞きまわって、奪還屋さんはここにいるというのを知って…」
来ちゃいました!

そう言って、にこ、とはにかんだ。
あの時の花のような笑顔とはまた違うけど…
どっちかというと夏実ちゃんタイプ?

「そっか…あ、それでどうしたの?何か依頼?んぁっ!その前に!君の名前教えて?オレこの前聞き忘れちゃって…」
名前教えてもらわなきゃ不便だし、ね。
とつけ加えた。

「あー…そういえば言ってませんでしたね。石田真澄っていいます!真澄でいいですよ!」
「真澄ちゃんかぁ…。わかった、真澄ね!あ、それとその敬語!普通でいいよ?」
「わかりました!って、あ…わかった!」
本当に笑顔が眩しい子。
この間の泣き顔が嘘みたい…。
あの夜の出来事がトラウマになってるみたいでもなさそうだし、良かったぁ…。

「えっと、それで…銀ちゃん、お願いがあるの!」
…オレは女の子に『銀ちゃん』って呼ばれやすい体質なのかなぁ?
ま、まぁそれは置いといて。

「なぁに?オレにできることなら…」
すると、真澄は下を向いて。
具合が悪くなったのかと思い、声をかけようとすると、ばっと顔を上げた。

「その…今日、バレンタインでしょ?…これ、受けとってほしいの!」
真澄の手に乗っていたのは…
赤い可愛らしい袋。

「これは…?」
「銀ちゃん、鈍いっ!」
…真澄、顔が真っ赤…?

「…銀次にも春がきたか?」
横から聞こえた、波児さんの渋い声。
「わぁっ!」
いきなり入ってきたからびっくりしちゃったよ…。
ん?…春?え、まさか…!

「え…と、その、つまり…」
「…銀ちゃんのことが、好き…です…」
真っ赤な顔をした真澄の口から紡がれた言葉。

…たぶん、今までのオレならすっごい喜んでた。
この赤い袋だって、すぐに受け取ってた。
――も、ごめん…真澄。
オレね、…好きな人…いるの。

「…真澄、あのね、オレ…」
なかなか受け取らないオレの様子に気付いたのか、真澄は表情に少し陰を落とした。
「…好きな人、いるの?」
真澄の口から出た言葉に、少し驚く。
…まだ言ってないのに、気づかれちゃった…。

「…女の子って、すごい…」
思わず呟いたのは真澄に聞こえていたらしく。

「…わかるよ、それくらい!皆銀ちゃんみたいに鈍感じゃないんだから!」
…さっきよりも、口調が明るい。
無理して、元気に振舞ってる。
そんな真澄を見て、ズキ…と心が軋んだ。

オレがこの子を辛い気持ちにさせている。
…だけど、この目の前にいる素直な子は、偽りの気持ちで付き合ったってもっと傷つけてしまう。

「…そうだよね。ゴメンね、オレ馬鹿だから…」
それしか、言えなかった。
真澄の口は微笑んでるように見えるけど、目線は地面へ向かっている。

「…あのね、じゃぁこれだけでも私のお願い、聞いて欲しいな」
その視線をオレへと戻して、目を細めて微笑む。

「…なぁに?」
「これ、受けとってほしいの。…銀ちゃんの気持ちはわかったよ?
だけどね、これ…銀ちゃんのために作ったの…。
だから受け取ってほしい…。ごめんね、迷惑だよね。だけど…」

真澄の言葉に、思わず泣きそうになった。
…今泣きたいのは、真澄のはずなのに。

「うん…うん、貰う…。喜んで貰うよ!
真澄が作ってくれたもの、迷惑なわけないじゃんか…」
そっと真澄の手を包んで、中にある袋を受け取った。

「…ありがとう、真澄…。嬉しいよ、オレ!」
せめて、笑顔で。
真澄ほどの笑顔はできないけど…
精一杯の、笑顔を。

「…頑張ったな、銀次」
真澄が去って行った扉をぼけっと見ていたオレに、波児さんが声をかける。
「ぁ…波児、さん…」

真澄は、『フられちゃったけど…今度はお友達として、ここにきていいかなぁ?』
と笑いながら言った。
もちろん、『うん、これからもよろしくね!』
と返した。

…たぶん、あの子はとてもいい子だと思う。
直感でそう思う。

だけど、あの子は一つ問題を残していってくれちゃった。
扉をあけ、足を踏み出した時。
あ、と小さく声をあげ、オレの方へ振り返った。
ちょっときて!と手を招いていたので、オレは真澄の方へと寄った。
…すると。

真澄は、オレの耳へ口元を近づけ、
「銀ちゃんも、頑張ってね?応援してる!渡すなら今日だよ!」
と囁き、再びあの眩しい笑顔を浮かべて、HTを出て行った。

…頑張る、って…。
オレが、蛮ちゃんに…何かあげるってこと…だよね?

ちら、と蛮ちゃんの方を振り返る。
すると、頬づえをついてこっちをじとっ…と見つめて(睨んで?)いる蛮ちゃんと目が合った。

…こわい、こわいよ蛮ちゃん。
なんでそんなに見つめる(睨む?)のさ。

 

⇒4

Novel