Valentine Love 6

 

 

 

「…いや、その言葉だけで十分だ…。
…なぁ、銀次。ここに入んなくてもよ、俺と…もっと近くなれること、あるだろ?」
そうだ。順序を間違えてしまっていたんだ、俺らは。

「え…?」
銀次の頬へ手を滑らせ、そっと自分へ寄せる。
…そして、唇を重ねる。
「…な?近ぇだろ?」
さっきよりも深く長く、啄ばむように口付ける。

「ふ、…ぁ」
…やっべぇ。
薄く開いた唇の間から、銀次の吐息が漏れて…
舌を入れたくなってしまう…。

――まだ、銀次は慣れてないから…
怖がらせたくないのに、という気持ちとは裏腹に、もっと乱したい、という欲求が溢れてくる。

「っ…!」
銀次は少し眉を寄せ、目尻から涙が零れる。
その表情が、とても…色っぽくて。
いつもの天真爛漫な姿はどこへ行った。

「…銀次」
――これ以上は抑えられなくなる……
ゆっくりと唇を離す。
…俺の唇と、銀次の唇と。
銀色の細く煌めく糸が、つぅ…と繋いで。

「蛮ちゃ…」
「…大丈夫かよ」
少しキスが長かったのか、呼吸が乱れている。
慣れていない銀次には少し可哀想な事をしたか…?
…俺に縋るように見上げて涙ぐんだ瞳、シャツの端を握る手、
――俺との行為を肯定する言葉。

今、この場で襲いそうになるのを押さえるのでいっぱいいっぱいだ。
…なのに、銀次ときたら。

「蛮、ちゃ…もっと…近く、なりたいよ…蛮ちゃんと一緒になりたいよ…ぉ…」
「…っ、バカ…!」
もう無理。我慢とか理性とか…吹っ飛んだ。

強く銀次を抱き寄せて、首筋に顔を埋める。
…銀次の甘い匂い。
銀次の一つ一つが俺を煽る…。

「行くぞ…」
まだ銀次を離したくなかったが、人通りが少ないとはいえ、ここは往来。
それに…ホテルに入っちまえばもっと銀次に触れられるし。


まだ昼間だからか、スラスラとチェックインを済ませ、部屋の前までたどり着く。
移動の間、銀次は顔を真っ赤にして俯いたまんま。
そんな表情にも熱を高められて…どうしようもない。

――カチャ…

…ヤバい。銀次の緊張が俺にまで…。
部屋に入った瞬間、自分が銀次を襲ってしまいそうで。
気付かれない程度に深呼吸をし、銀次の肩を寄せる。
そのまま、部屋に足を踏み入れた。

銀次と出逢ってから、女と遊ぶのはやめたからラブホに来たのは結構久し振りだったりする。
…それにしても。
セックスっつーのは、こんなにも緊張するもんだったか…?やっぱり、相手が銀次だからだろうか。

触れれば、消えてしまいそうで。
求めれば、壊れてしまいそうで。

「シャワー…先使ってこい」
「あ…うん」
すぐにパタパタと音を立てて銀次が浴室へ向かう。

「…やべぇって」
まさか。
まさか、銀次から告白されるとは思っていなかった。
好きなのは、自分だけなんだろう、と。
銀次はしょっちゅう「蛮ちゃん大好き」と言ってくるが、それは相棒としての「好き」なんだろう、と。

…両想いって、こんなにすげぇもんだったか?
こんなに、甘い…。
さっきもこんなことを考えたような気がする。

銀次の気持ちがわかっただけで、結構なところまできてるのに…一気にホテルだなんて。
ここ数時間…数十分のうちで色んなことがありすぎて…正直、夢じゃないかと思った。

でも…これが、現実。

目の前には、モコモコとしたバスローブに身を包んだ銀次。
その金色の髪からは水が滴り落ち、首筋を伝う。

「っ…そこらへんで、楽にしてろ」
こんな素っ気ない言葉しかでてこない。
一番不安なのは、銀次なのに。
少し早足で浴室へ向かう。

…銀次のさっきの表情、が。
とてつもなく、腰にキた。
もう銀次に申し訳ないくらいに盛ってしまって…

「…カッコ悪」
わかっているんだけども。
銀次を目の前にして、冷静になんていられない。

シャワーのコックを最大に捻って、頭から湯をかぶる。
「…つめた」
なんだこれ。
降ってきた湯、もとい、水は…相当冷たい。
全身に鳥肌が立ってしまった。

 

⇒7

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