「…くっ」
「………」
…いや、わかってんだよ。
今の俺がすっげぇ怪しいことは。
夏実とレナにいたっては、
「きゃっ、蛮さんが笑ってるっ…銀ちゃん逃げて!」
なんつって銀次を連れて外に行きやがった。
「…くくっ…」
それでも俺は笑いが止まらない。
何故なら。
――今日は、ホワイトデー。
そりゃもう素的なモノをくれた銀次に、お返しをする日。
「…蛮」
「…あん?」
「お前…なんか用意してんのか?」
浮かれてばっかじゃどうしようもねぇぞ、みたいな含み。
この間のことをすべて話した訳じゃないが、なんとなくわかっているらしい。
まぁ…銀次の態度を見りゃぁ、鋭い波児にはわかるだろう。
あれから銀次は、俺と少しでも肌が触れ合ったり、密着度が近くなったりするとすぐに顔を真っ赤にしてしまう。
それはそれは可愛いコト。
今すぐに襲いたくなってしまう。
むしろ、狙ってんのか?って思うくれぇに俺のツボをついてくる。
凶悪的に可愛いんだよ、銀次。…そうじゃなくて。
「あー…用意っつか…まぁ…大丈夫だ」
蛮の曖昧な答えに、「は?」という顔の波児。
「お、帰ってきたぞ」
波児の言葉に、扉の方を向けば…
「蛮ちゃんっ!あのね、あのね!」
店内に入るや否や、蛮の所へ駆け寄ってくる銀次。
「おうおうおう…落ち着け、車の中で聞いてやるから」
「うんっ!」
まるで、飼い主に今からお散歩に行こうと言われた犬のような。
…いや、別に銀次のことを犬って言ってるワケじゃなくて。
可愛いって意味だ。
「んじゃな、俺らスバルに戻るわ」
「はーい!いってらっしゃい!」
「凍死すんじゃねえぞー」
春先とは言え、夜になれば冷える。
しかし、なんつー縁起でもないことをズケズケと…
「うっせ!凍死なんざするもんかっつの!
俺はなぁ、死ぬなら銀次の腹上死…」
「蛮ちゃん!!スバルっ、戻ろ!」
全て言い終える前に銀次に引きずられ、強制撤退。
「もぉー…蛮ちゃんは何ですぐあーゆーえっちぃ方向に行っちゃうかなぁー…」
「ばぁーか、死ぬならお前とくっつきながら死にてェっつってんだよ」
「そっ…そうならそう言ってよ!わざとあんなえっちな言い方しなくたって…」
くっつきながら、という台詞に顔を赤くした銀次。
あーもー、また可愛い顔しやがって…!
夜まで身体がもたねぇよ…。
「だぁから、死ぬときゃお前と一緒にいたいんだって。な?」
スバルの車体へ寄りかかり、銀次の方を向く。
銀次は俯いていて、…なんとなく泣きそうな顔で。
あー…あれか。銀次が泣きそうになってる理由。
「…心配すんなって…。お前を置いて死にゃぁしねぇよ…一緒だろ?俺達」
そう言うと、ばっと顔をあげる銀次。
…やっぱり。瞳には涙の膜が張っている。
「…ほら、車乗れ」
自分も運転席に座りながら、銀次へ促す。
隣に大人しく座った銀次に手を伸ばして、キラキラと輝く金色へ触れる。
「…今日、何の日か分かるか?」
髪を指先で遊びながら、そっと銀次に尋ねる。
…自分でも驚くほど、穏やかな声。
こんな風になったのは…銀次に出逢ってからだ。
無意識に、自分が柔らかくなったような気がする。
どれもこれも、銀次の存在があるから。
そんな銀次が、この間くれたモノ。
一番欲しくて、一番手に入らなかったモノ。
…銀次。
ずっとずっと、銀次が欲しかった。
銀次をくれた銀次に…きちんとお返しがしたい。
それが、銀次に値するモノかはわからないけれど。
「今日…?んぁ…?」
「…ホワイトデー。バレンタインデーのお返しをする日だ…」
遊んでいた指先を頬へと滑らせ、唇をなぞる。
そこに吸い込まれるように…顔を近づけていく。
唇を合わせる寸前で…一言。
「…お返し、させて?」
「ぁ…」
「お前のお返しは…俺じゃぁ不十分か…?」
返事をくれないとちゃんとしたキスはしてあげない、とでも言うように、啄ばむように合わせるだけ。
「ちょぉ…だい…」
銀次が言葉を紡ぐたびに、重なる唇から感じる動き。
それがとても、いやらしくて…。
「何を…?」
――お返しか、…これ以上のコトか。
わかっているのに…銀次のクチから聞きたいと思ってしまう。
また、銀次はそれに答えてしまうから。
抜け出せないほどに、銀次にハマっていく。
溺れていく感覚が心地良いんだから、どうしようもない。
「蛮、ちゃん…。蛮ちゃん、ちょうだい…?」
赤らめた頬に涙目の上目使い。
これに耐えられるほど、蛮の理性は強くない。
「たっぷりやるから…覚悟しとけよ?銀次」
「蛮、ちゃ…」