「っうわぁぁぁっぁ!!!!!」
がばっ。
すぐ傍の時計を見れば、いつもならもう家を出ている7時10分。
「あああああ…遅刻ぅ!!!!」
急いで制服を着て、階段を降り洗面所へ走る。
身なりが整っていることを確認し、朝ごはんは程々に外へ飛び出た。
腕時計の時刻はもう学校へ着いているはずの時間を示している。
「はぁ…もうこれ遅刻決定だよ…」
歩いて行こう…
と思ったが。
「あ、昨日確か新しく学校に来る先生を朝紹介するって言ってたな…」
だったらやっぱ急がなきゃ!
そう思い、銀次は学校への道のりを走った。
「わぁぁぁあああ!!!!待ってっ!待ってェェェ!!!!」
必死で走りながら、目の前で閉まっていく校門へと叫ぶ。
あ、あ、あ、あ、、、
もうダメ、かも…
どんどん幅が狭まっていく。
これ、門に入れたとしてもオレ挟まっちゃうって!!
門に挟まって死ぬのだけは絶対に嫌だと思い、
銀次は更にスピードを上げた。
…そして、ギリギリで門を通り抜けた瞬間。
学校に、チャイムが鳴り響いた。
「はぁっ…はっ…」
四階までの階段を一気に駆け上がる。
な、なんでオレら一年なのに最上階なのかな…?
いつも階段を上る度に銀次はそう思う。
とくに、遅刻の多い銀次にとっては結構なことだったりする。
「ラストぉっ…」
三階まで行き、ラストスパートをかけようとした瞬間。
「うわっ…!!?」
「うをっ…」
見知らぬ人とぶつかってしまった。
しかも、自分は吹っ飛んで尻もちをついてしまった。
「いだだ…」
自分がこんだけ痛いということは、相手も痛いということ。
慌てて立ち上がり銀次は、即座に謝ろうとした。
「すっ、すいません・・・!オレめっちゃ急いでて前見てませんでした…!!」
そのままお辞儀。
そして、顔を上げると。
…懐かしいその整った顔。
え……?
驚きすぎて、声もでない。
その姿は、教師の格好をした懐かしい幼馴染。
でも、そんなワケ…
銀次は、すぐにその考えを吹っ飛ばした。
だって、あの人は…
オレの前から突然消えてしまったんだもん。
「あっ…と、えと…ホント、すみませんでした!」
と言い、銀次は逃げるように四階へと駆けた。
教室へと向かう途中も、頭に浮かんでくるのはさっきの人のことばかり。
なんで…なんで、なんで?
なんで今更オレの前に…?
…あぁ、オレの頭じゃこれ以上考えたら爆発しちゃうよ…
考えるのやめっ!
銀次は自分で墓穴を掘っていることにも気付かず、
自己完結へと導いた。
が、そんな単純に完結できるような問題でもなく。
あ、あ、あ…
もうダメだ、真面目に熱でそう…
とりあえず家帰ってから考えよう…
「先生のカッコしてたよね…?てコトは、明日もいるってこと…。」
よし、とりあえず今日家帰って、それから考えて。
それで明日どうにかしよう。
これで今日熱ださずにすみそう…
と考えているうちに、銀次は教室についた。
がらっ。
「あ、銀次さん。おはようございます。
ふふっ、また遅刻ですか?ほら、早く席に着いた方がいいですよ。」
そう言いながら、銀次の椅子を机から引っ張る。
綺麗な声の主は、風鳥院花月。
女のような美しい容姿だが、正真正銘の男だ。
彼の来ている男子制服がその証明。
「カヅっちゃぁん…ありがとっv」
そして、席に着いた。
その瞬間、緊張がほぐれたのか、どっと疲れが襲ってきた。
「はぁ…疲れたぁ…」
色んな意味で。
最後の部分はあえて口にはしなかった。
…カヅっちゃん達が詳しく聞いてくるだろうし。
「あ、銀次さん。昨日担任の先生が、自分の代わりにこの学校に新しい先生がくる、と言っていたじゃないですか。
その先生のことなんですがね…」
…そのあともカヅっちゃんは何か話していたけど、
オレの耳には届いていなかった。
新しい先生がくる、とは聞いていたけど…
ウチのクラスの先生なの!?
オレは、「新しい先生がくる」という部分を聞いていただけで、
「担任の代わりに先生がくる」とは聞いていなかった。
――オレの頭の中では、警報がガンガンと鳴り響いていた。
その時、前の扉ががら、と開いた。
皆一斉にそちらを見る。
その途端、女子から上がる声。
…まさか。
そうだ、彼は容姿が綺麗だから、女受けがよかった。
…まさか、まさか。
でも、だからといってそんな…!
恐る恐る、顔を教団へと向けた。
「今日からここのクラスの担任となる、美堂蛮先生です。」
頭に響いていた警報は、もう止まっていた。
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