蛮ちゃん。オレね、蛮ちゃんが大好きなんだ。
蛮ちゃんも知ってるよね?
いっつも抱きついたりしてるから…
だから、いつもいつもオレを庇ってケガをする蛮ちゃんを見るのは、
とても辛かったの。
大好きな蛮ちゃんが、オレのせいでケガをするのは。
オレはやっぱり足手纏いなんじゃないか。
またオレのせいで蛮ちゃんをケガさせてしまった、って。
でも、蛮ちゃんは、泣きそうになっているオレを見て、
いっつもこう言ってくれてたよね。
「俺は、お前を守りたい。
俺が守りたくてやったんだから、お前が悲しむ必要はねぇんだよ。
俺は俺がケガするより、お前がケガする方が痛ぇんだからよ。」
それから優しく笑って、頭撫でてくれてたよね。
俺は、いつもその言葉に救われてたんだ。
何より、蛮ちゃんが笑ってくれることに、救われてた。
でもやっぱりオレのせいでケガをさせてしまうのは嫌で。
…だから、今回は嬉しかった。
自分がケガして嬉しい、っていうのもどうかと思うけど、
守られてばかりのオレも蛮ちゃんを守れた。
ケガしたところは痛いけど、でも蛮ちゃんがケガするよりは痛くなくて。
…そんなオレを申し訳なさそうに見つめる蛮ちゃんを見るのは、
それなりに痛かったけど。
でも、自分が守られるだけよりは、全然いいんだ。
――蛮ちゃんの気持ちが、少しわかったような気がした――。
「…じゃぁ、オレがその人達を気絶させて、守りを薄くする。
その間に蛮ちゃんが中に入って、奪還物を探す。
で、オレは敵が蛮ちゃんの方に全員行くのを確認してから、
反対の出口から入って蛮ちゃんに向かっていく敵を後ろから倒していく。これでいいんだよね?」
「おう。その通りだ。」
オレらは、HTで受けた依頼を成功させるために、入念に作戦を練っていた。
今回の依頼自体は簡単。
なんだけど、相手が護り屋を雇っているらしくて、慎重にいかないとダメらしい。
その護り屋がショボければいいのだが、もし菱木竜童だったりしたら…
大変なことになる。ということで、できるだけ争いは避けるような作戦を立てていた。
もし最強の菱木を雇っているのなら、奪還物の一番近くに配置しているはず…。
なので、二人は逆方向から共に奪還物へと向かい、菱木と遭遇しても二人で応戦できるようにしたのだ。
「よしっ。さすがにオレら二人相手なら、菱木も倒せるねっ!」
「…だといいんだけどなぁ…あのジジイは不死身だからなぁ…」
「あぅ…蛮ちゃんそれは言っちゃダメなのです…」
ちょっとした不安も残るまま、オレらは奪還を開始した。
――今度こそは、オレのせいで蛮ちゃんがケガしませんように…
今度こそは、蛮ちゃんを守れますように…
そう願いながら、オレはてんとうむし君に揺られていた。
不思議と、飛び込んでいくことに恐怖と躊躇いはなくて。
自分の身が危険に晒されることよりも、彼が死んでしまうことのほうがよっぽど怖くて、悲しくて。
自分に向って発砲される三発の弾と刀を持った男が、だんだんと、近づいて。
三発すべての弾と、もう一方から向かってくる刀を、自分が受け止められるか不安で。
彼に弾が届かないように、できるだけ腕を広げて。
少しでも守れるように敵へ向かっていくオレの後ろで、オレの名前を叫ぶ声が聞こえた。
左腕と、腹、右脚の太腿に貫通したような痛みが走った。
同時に、肩から胸へかけての切り裂かれる痛み。
ほぼ全身が、痛くて動かなくて。
瞬間、目の前に赤が広がる。
いつもの蛮ちゃんの血ではなくて、自分の血。
そして、どんどんと後ろへ体が傾く。
踏んばるように力を入れるけど、
撃たれた足と傷ついた身体ではそんなことできるわけがなくて、ただ痛みが襲うだけだった。
周りの音が、小さくなっていく。
周りの景色が、霞んでいく。
あぁ、もう、倒れる…
そう思った時、
「銀次ぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
蛮ちゃんの悲鳴に似た叫び声だけが、遠のいていく意識の中ではっきりと聞こえた。
「銀次っ、オイ!銀次ぃっ!!」
この数分間で数えきれないくらい愛しい人の名前を呼んで。
何度も何度もその体を揺さぶるけど、その瞳をあけてくれない。
俺の不安が募っていくごとに、銀次の顔色が少しずつ悪くなって、青白くなり身体が冷たくなっていく。
そして、地面に広がっていく真っ赤な血液。
その顔の白さと出血の多さに、拭いきれない『死』という言葉。
先程まで戦って暴れて熱くなった俺の体温が、嫌という程銀次の冷たくなっていく体を感じさせる。
「銀次っ…!!おい、目ェ覚ませよっ…!!」
あ、ヤバい。と思った瞬間、目の前に銀次がいて。
さっきまでの焦りは、違う種類の焦りに変わっていって。
銀次が傷つくのが嫌で、叫んだ愛しい名前。
だがその願いは叶わず、俺の方へと倒れていくその血まみれの身体。
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