すでに意識の無い銀次を受け止めた瞬間、恐怖が一気に襲いかかってきた。
銀次、銀次、銀次、銀次…!!!!
同時に、銀次を傷つけた奴へどうしようもない怒りが体を支配した。
気がつけば、周りの奴は全員倒れていた。
銀次が人を殺めるのを嫌っていることを知っている俺は、
無意識にそれを守ろうとしたのか、倒れた奴らはかろうじて生きている状態だった。
いっそ、殺してやろうかと思った。
だけど、銀次が悲しむ、と思ったらできなかった。
でもやっぱり怒りは消せなくて。
ふつふつと身体が熱を持っていくのを感じていた。
その時、銀次の消え入りそうな呼吸が聞こえて、我に返った。
慌てて銀次へ駆け寄り、自分のシャツを破り傷口をきつく縛る。
出血の量を見れば、相当な傷の深さ。
加えて、何か所もやられている。
銀次を見れば見るほど、焦りは大きくなっていく。
とりあえず、今は出血をこれ以上させないようにしねぇと…!!
そこらへんに散らばっている俺が倒した奴らの服を引きちぎると、
先程縛った俺のシャツの上からまた傷口を縛った。
本当は、こいつらなんかの服を銀次に触れさせたくはなかったが、こんなことを言っている場合ではない。
こんな深い傷、応急処置をしても変わらないかもしれない。
だけど、しないよりはマシだろう。
奪還物をつかみ取り血だらけの銀次を背負い、スバルへと向かった。
早く、早く銀次を病院につれていかねぇと…!!!
今回に限って都会から随分離れたこの場所から病院に着くまで、
銀次は耐えられるだろうか…?
…ダメだ、ダメだ、ダメだ!!
頭によぎる最悪な結果を振り払う。
スバルへ乗り込むと、助手席へ銀次をそっと寝かせる。
さっきより、顔色は少しだけ良くなったようだ。
でも、とまらない出血。
縛ったばかりの何枚ものシャツに、もう血が滲みはじめている。
奥に入っている毛布をとりだし、さらにその上から重ねて縛る。
そして、エンジンをかけた。
―――だが、何メートルか走ったところでスバルは停止してしまった。
こんな時にガソリン切れかよ…!!
くそ、くそっ…!!
「ちっ…!どーすりゃいいんだよ…!!」
ダメだ、さっき振り払った考えがまた頭をよぎる。
落ち着け自分。銀次の丈夫さを信じるんだ。
そして、自分は銀次を助けることだけを考えろ!!
自分に言い聞かせ、頭を落ち着かせる。
どうすれば一番確実に銀次を助けられる…?
このまま病院に行くには、時間がかかりすぎる。
だからといって、このまま応急処置だけで済ますわけにもいかない。
「そうだ、ヘヴン…!」
急いで自分の服から携帯を取り出し、ヘヴンへ連絡をする。
…だが、ここは山奥で完璧に電波がイっちまってる…
どんだけツいてないんだよ…。
どうする…?
やっぱりこのまま病院へ銀次かついで行くか…?
いや、無理だな。
俺もさっきの戦闘で我を忘れて暴れて体力は落ちているし、
銀次にできるだけ衝撃をあたえたくない。出血も増やしたくない。
何なんだ、俺は。
「くそっ…」
大切な奴一人守れずに。
「ちくしょうっ…」
何のために俺はここにいる?
「ちくしょうっ…!!」
銀次を、愛しているやつを守るためじゃねぇのかよ…!!
「俺は…何にもできねぇっつーのかよ…!!?」
こんな、銀次が苦しんでいる間に。
俺のせいで、銀次を危険に晒せてしまった。
俺の、せいで…。
なんでこんな、呪われた俺なんか庇ったりしたんだよ…!!
お前がいなくなっちまったら、俺は…!!!
俺は、どうすればいいんだよ…!!
生きて、いけねぇよ…!!!
「っ…!!」
その時、気づいた。
俺にいつも守られていた、銀次の気持ちに。
いつも…こんな辛い思いしてたってのか…?
自分のせいで、大切な人が傷ついていくのを…
俺はいつも、何をしていた?
銀次を傷つけたくなくて、失いたくなくて。
守りたいから、庇ってた。
守りたいから、自分を盾にしていた。
銀次を守れたから、それでいい。
自分はそう思っていた。
失いたくなくて、ずっと傍にいてほしくて…愛していて。
でも、銀次はそのたびにこんな気持ちになってたのか?
こんなに不安で、怖くて、どうしようもない…気持ちだったのかよ?
Novel