あぁ…もう、最悪だ…
一人で銀次を守って、自己満足で。
結局守ったつもりでも、俺の行動が銀次を傷つけてた。
何を考えてたんだ、俺は…
俺が銀次を庇うたびに、銀次が責任を感じていることはわかってたことじゃねぇか。
悲しそうな、泣きそうな顔を見てたじゃねぇか。
俺は良くても、銀次は良くなかった…
「お前を守れたから、俺はいい」
こんな言葉じゃぁ、片付けられないものだった。この気持ちは…
実際、今銀次が目を覚ましたとして、
「大丈夫だよ、気にしないで」
って言われても、自分を責めないことはできないだろう。
最悪だ…
こんなに近くにいたのに、銀次の気持ちに気づいてやれなかった…
俺は銀次の何を見ていたんだ。
銀次は、俺に庇われるたびに、
何度俺を失う怖さを感じていたんだろう。
何度、自分を責めたんだろう…
…思えば思うほどに、自己嫌悪に陥る。
だが、今そんな後悔をしていても銀次のケガが回復するわけではない。
ふと、横にいる銀次を見る。
さっきよりは、体温があがったみたいだ。
頬に触れる指先に、温かさが広がる。
「…よかった…やっぱ応急処置しといて正解だったな…」
でもいまだに呼吸は苦しそうにしている。
失われた血を取り戻すことはできない。
「銀次…俺が傍にいるから…頑張れ、絶対ェ死ぬんじゃねェぞ…!!」
死んだら、絶対ェ許さねぇ。
俺も死んで呪ってやろうか。
とりあえず、銀次の流した血を補わないとヤバい。
今だってどくどくと数か所から血が体の外へ流れてしまっている。
「くそ…」
ここに輸血できる血液だってないし、第一器具だってない。
…自分の血を飲ませるか?
…いや、リスクが高すぎる。
自分には呪われた血が流れている。
それを銀次に流し込むわけには…いかない。
だけど、それ以外に今できるものはない。
…銀次の丈夫さと根性を信じるしかない。
――俺は、自分の血を銀次に分ける事を決意した。
…あれ、でも血液型の違う奴の血って、体に取り込んでも平気なのか?
決意した次の瞬間に俺の思いはしぼんでいった。
…なんか、俺超情けなくね?
銀次のこととなると、俺は冷静さを失ってしまう…。
この俺様が、ね…。
よし、大丈夫だ。
コイツは、デタラメな体してんだ。
うん、大丈夫だ。
信じろ、銀次を。そして、…俺自身の血を。
銀次の後ろへ回り、上半身をそっと俺に寄り掛らせる。
俺の胸に頭をのせている銀次。
…まだ意識は戻らない。
俺は、自分の唇を歯で噛み切る。
その途端、唇から真っ赤な血が流れてきた。
そして、銀次の顔を上に向かせる。
…そのまま。
銀次の唇に、俺のを押し付けた。
銀次へと流れ込む俺の血。
ゴクン、と銀次の喉が鳴る。
…飲んだ、か?
それを何度か繰り返す。
唇の横から零れてしまう血を指先で拭ってやり、
その指さえも銀次の口へと差し込む。
…無意識なのか、舌を絡ませてきた。
「っ…!」
誘ってんのか、こいつは…
「…ぁ、」
気のせいじゃない。顔色が普通に戻っている。
それに、呼吸が先程よりも整っている。
「銀、次…おい、銀次…大丈夫か…?なぁ…頼むから…目ェ覚ましてくれよ…!!」
――俺の願いが叶ったのか、…銀次はうっすらと銀次は瞳をあけた。
「銀次…!!銀次、銀次…!!!」
よかった。ホントに…よかった…。
銀次があちこちケガしているのも忘れて、力の入っていない身体を掻き抱いた。
「銀、次っ…大丈夫か…?銀次…よかった、よかった…!!」
腕に力を込める。
「ははっ…蛮ちゃ…痛い、よぉ…もぉ…」
銀次の、いつもより力の無い声。
今まで耳障りなだけだった周りの音が聞こえなくなって、銀次の声だけに集中がいく。
「バカ…銀次…お前…」
言いたいことがありすぎて、言葉にならない。
でも、これだけは伝えたい。
「銀次…よかった…。お前がもう目を覚まさないんじゃねぇか、って…すっげぇ、不安で…
いつも、お前こんな気持ちだったんだな…」
本当に、怖かった。
目の前でどんどん冷たくなっていく銀次が。
もう、銀次の声を聞くことはできないのか。
もう、銀次の俺だけに向けられる笑顔を、
見ることはできないのか。
「すっげぇ、怖かった…。テメェ、もう俺なんか庇うんじゃねぇぞ…?」
こんな思いをするのはもうゴメンだ。
「ん…わかった…。けどね、これだけはわかってほしいの…。
『蛮ちゃんなんか』じゃなくて、『蛮ちゃんだから』なんだよ…。
オレの大好きな蛮ちゃんだから、庇いたくなるんだよ…?それだけは、わかって…!」
俺の方に首を捻ってそう必死に告げる銀次が、どうしようもなく愛しかった。
「銀、次… おう、わかった…だから、もう…こんなことするんじゃねぇよ…」
――優しく、そう告げた。
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