Prisoner

 

―テメェは、気づいてねェんだよ。


「ちょっと蛮ちゃん!いっつも言うけどねぇっ…」
「あ゛ぁ!?アイツらが悪ィんだろ、俺らのことに余計な首ツッこむから…」
「だからってあの態度はヒドいよ!カヅっちゃん達だってオレらのこと心配して言ってくれてたんだよ?なのに蛮ちゃん…!」

―オマエは何も知らねェから、そーやってアイツらを庇えるんだよ…。

「んだよ…余計な口出しするからだろ?アイツらは俺らに関係ねェだろ、」

―オマエが、アイツらが自分のことを狙ってる、なんて考えもしねェんだろ?

「っ…もぉいいっ!蛮ちゃんのバカッ!変態!鬼!ドS!!」
「ちょ…おい、待て銀次!」

―オマエは、俺がどんだけテメェのことが大切か、知らねェだろ?
他の奴に取られそうで…どんだけ不安か、知らねェだろ…?

…ホラ、今だってオマエは俺の元からすり抜けていく…


**


蛮ちゃんのバカ…!カヅっちゃんたちはオレの友達だよ?仲間だよ?
なのにどうしてあんなこと言うのさぁ…!

銀次はスバルを飛び出し、大雨の中街を走っていた。
雨が降っているからか人はほとんどおらず、誰にもぶつからなかった。

「はぁっ、はっ……あ、れ…?」
気付けば、家も店らしきものもなにもない、暗い路地に入り込んでしまっていた。

雨、暗い場所、独り…今の状況がすべて重なり、嫌な思い出しか浮かんでこない。
いつもなら、こんな日には隣で彼がオレを安心させてくれてた…。
…でも今は独り。隣には、大好きな蛮ちゃんはいない…。
―なにもかも自業自得。自分で彼の元から飛び出し、自分からここへと来てしまった…。

「蛮、ちゃ…」
彼の名を呼びかけ、はっとして口を閉ざす。
―蛮ちゃんは、オレの声がどこでも聞こえるんだった…。
今ここで呼んだら、蛮ちゃんに聞こえちゃう…。
自分で出てったクセに、自分から寂しさを訴えるなんて。
そんな自己中なこと銀次にはできない。

「………」
さび、しい。
いつも傍にある温もりが、ない。

「…オレ、蛮ちゃんがいないと、こんなに…」
―こんなに、弱いんだ。

 


「銀次…」
無意識に近い。…彼の名を呼んでしまう。
心の中で呼んでいる回数を合わせれば、銀次がさっき出てってから今までの約10分間、軽く500回は超える。

「銀、次…」
たしかに、HTで糸巻きどもには言いすぎたとは思う。…ほんのちょっと。
けど、いかにせアイツらは銀次に世話を焼きすぎてる。


「銀次さん、毎晩美堂くんと一緒にいて無事なんですか?乱暴されてませんか?
少しでも危機を感じたらすぐ僕らの所に来てくださいね!」
頭の中でHTでのことを思い出す。

……。いやいやいや、やっぱ俺悪くねェよな…?
どー考えても悪ィの向こうだろ…。
なのになんで俺があんなに言われなきゃなんでーんだ?
バカ?変態?鬼?ドS??…バカ以外は否定できねェけど。

「…つか、銀次帰ってこねェ…」
出て行ってそれほど時間は経っていないはず。
けれど、蛮にとっては一時間にも、それ以上にも感じた。
「…迷子?それとも事件に巻き込まれたか…?」
どちらも銀次にすればありえそうな話なのが悲しい。…でも。
「…それはねェな…」
銀次の声が、聞こえない。
…銀次の声は全て俺に聞こえる。なのに、聞こえてこない…。
ということは、銀次は俺の事を呼んじゃいねェ、っつーこと。

「呼べよ…銀次…!」
蛮の呟きは、自分しかいないスバルの中へと吸い込まれていった。


「う…どーしよー…」
やばい。やばいよ。右も左もわからない。どちらに向かえば、出口へいけるのかも分からない。
「迷子、ですか…オレ。」
こんな時に才能を発揮してしまうなんて…。
「や、やばい…帰れないぃぃぃ!!!」

情けなすぎて涙がでてくる。
迷子になった子供が、親に会えた瞬間号泣するのはこのためか。…どうしようもないほどに蛮に会いたい。
「っ…蛮ちゃぁん…!!」

もういい。意地なんて張ってられない。
「蛮ちゃぁんっ…!会いたいよぉ…!!」
泣きながら、大好きな人の名前を呼んだ。

 

「!銀次…!!」
聞こえた。…間違いない、銀次の声。
銀次が、俺を呼んだ。…頭に直接響くような、男にしては高く甘い声。
そしてぼやけてはいるが、銀次の気配を感じる。

バンッ!!
俺はスバルの扉を勢い良く開け、銀次の気配を追った。


さっき蛮ちゃんを呼んだから、そろそろ来てくれるはず。
…会ったら、まず謝らなきゃ。色々と暴言を吐きまくってしまった…。
後悔に溺れる中、一つ考えが浮かぶ。

「あ…」
ダメ、だ…。待ってるだけじゃ、ダメだよ…。
もっとわかりやすい所に、移動して…って、オレ迷子なんだから下手に動かない方がいいのかなぁ…。
せっかく浮かんだものさえ、自分の状況により消えていく。

「んぁ…蛮ちゃぁん…早く会いたいのです…うぅ…」
ゴメン、ゴメンね蛮ちゃん。また迷惑かけちゃってるね、オレ…。
涙交じりに呟いた。

「ッ!??」
瞬間。背中に走る、覚えのある悪寒。
…まさか…この気配は…!

「クス…珍しいですね、銀次クン…こんな所にお一人で…。
美堂くんとご一緒ではないのですか…?これは丁度いい…」
これまた覚えのある感情の無い声。
そぉっと後ろに振り返る。

…目の前には、黒づくめの人物…。
―あぁ、蛮ちゃん…オレはもうダメみたいです…。

「あはは…こん、にちは…赤屍、さん…」
…引き攣った笑みしかできない…。
「クス…こんにちはv」
よく蛮ちゃんに「お前は感情が顔にでやすい」、と言われるけれど。
顔だけじゃなくて…

「あはは、はは…。………いやだぁぁ!!蛮ちゃぁぁぁぁん!!助けてぇぇぇっ!!」
本心を叫んでしまう。
こっちは必死に助けを求めてるというのに。

「クス…いいじゃないですか、銀次クン…。たまには二人でお話でもしましょうか…」
本人はクスクスと楽しそうに笑っている。

「いや、あの…ちょ、う゛…」
色々と言いたいことはあるが、言葉が見つからない。
とにかく、今伝えたいことは…

ばばば蛮ちゃん…!赤屍さんのお誘い、全力でお断りしたいです…!!!
「蛮ちゃんっ…助けてぇ…!!」


「…ん?」
何か、叫びに近いような銀次の声が聞こえた…?
『蛮ちゃん…蛮ちゃん…!」
…気のせいなんかじゃねェっ…!俺に助けを求めてる…!

「くそっ…!待ってろ、銀次…!今すぐ行くから…!」
走っても走っても、何故か銀次にたどり着かない…。
どうしてだ?大体の位置はわかってる…なのにどうして銀次が見つからない…っ!
焦りがミスを呼び、そして苛立ちへと繋がる。

「銀次ッ…」
本日何度目かわからない程呼んだ彼の名を、もう一度呼んだ。

 

→2

 

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