Body and mind

 


ねぇ、蛮ちゃん。
なんでオレら、こんなことになっちゃったんだっけ…。
あれ、よく考えてみれば蛮ちゃんのせいじゃない?

 

 

Body and mind

 

 

「蛮ちゃぁん…」
「…その姿で蛮ちゃん言うな」
「クセだもん…もう直せないよ」

スバルの中で交わされる、覇気の無いやりとり。

「なんでこんなことになっちゃったのかな…」
「全部卑弥呼のせいだろ」
「でも原因は蛮ちゃんだよね?」
「…うーるせぇ」
「だってぇ…」

隣を見れば、いつもいるはずの相棒はいない。
…変わりに、自分の姿。

「いつ戻れるの…?」
はぁ、と溜息をつきながら自分の姿をした蛮から視線を戻す。

「さぁな。アイツが解毒香を渡す気がおきたらだろ」
銀次とは反対にケロッとした様子の蛮。

「…はぁ」
もう一度深く息をついた銀次は、自分たちが入れ替わってしまった時の事を思い出していた。

 

…ことの始まりはHT。

 

「ちょっと蛮!!こないだの報酬、一体どういうコトよ!約束と違うじゃないの!!大体ね、アンタ…」
「ンだよ卑弥呼…ちゃんと金はやったじゃねぇか、10分の3を」

HTに入るなり、蛮達が座っているカウンターへと近づくと怒りを露わにした卑弥呼が大声を上げた。

「~~~!!!どこが10分の3よ!30円のどこが10分の3なの!?」
どうやら卑弥呼は、前回の仕事で蛮達のもらう金の10分の3、報酬としてもらう予定だったらしい。
だが、蛮に渡された封筒に入っていたのは30円。
その時その封筒の異様な軽さに怪訝に思ったが、
「今度お前の通帳に振り込んどくわ」
といわれ、とりあえず帰ったのだ。
しかし、一ヶ月経っても一銭も振り込まれておらず…。

「あン?俺らも100円しか金もらえなかったんだからしょーがねェだろ。そしたら10分の3だろ?だから30円。」
…元々自分らの報酬が100円だった、だから卑弥呼に渡す金も30円だ、と言いだした。

「…アンタらは100円の依頼を受けるっていうの?」
「ちげーよ、途中でちょっと失敗しちまってよ…それで随分とひかれちまったんだよ、金」

…よくもこうぽんぽんと嘘が浮かぶこと。
隣で騒動を眺めていた銀次は感心にも似た気持ちになった。
…てゆーか、蛮ちゃんって人を怒らす天才?

先程の台詞を聞いた卑弥呼の怒りは頂点。

「あぁそう…なら勝手にしなさい!!仕事もできずに困ればいいわ!!」
そう言うと、並んで座っていた蛮と銀次に向かって、キレイな緑色をしたビンの中身を振りまいた。
…反応が遅れた二人は、しっかりとその毒香水を吸いこんでしまい…。

「ちょ、テメェ卑弥呼!ナニ掛けやがった!!」
「フン!夜になれば嫌でもわかるわよ!!」
そう言って、HTを出て行った。

「夜…?」
卑弥呼が最後に残した台詞。
これがヒントなのか…?

「ちょっとぉ、蛮ちゃん…」
横から聞こえる、普段聴くことの無い銀次の怒ったような声。

「蛮ちゃんのせいで、オレにまで被害が及んじゃってんじゃん!」
「あぁ!?しょーがねーだろ、いきなりアイツが毒香水ぶっかけてきやがったんだから!!」
「だからその原因が蛮ちゃんでしょって言って…いったぁああ!!!!!!」

 

 

…そうだ…やっぱり蛮ちゃんが悪いんじゃん。
あの時は、途中で殴られて話題が変わっちゃって、毒香水のお話は終わったけど…
やっぱり悪いのは蛮ちゃんじゃんか…。

 

 

「銀次…いいだろ…?」
「ちょ、蛮ちゃん…」
昼間の事を忘れていた二人は、夜になると、もう濃い空気を醸し出していた。
「蛮ちゃん…なんか、カラダ変…」
なにが、とははっきり言えないが、銀次は身体に異変を感じているようだった。
でも、このときはもう既に毒香水のことは、頭になく…
「変なんかじゃねェよ…、…俺が欲しいんだろ?」
なんてことを言われた銀次は、うまく蛮に言いくるめられ、変な感覚を気にしないようにしていた。

「んやぁ…っ?」
――やっぱおかしいよ…。ドクドクいってる…!
「まって、ぇ…蛮ちゃん…」
ぐ、と蛮の身体を押すが、蛮に触れられ変に高まった銀次にそんな力は残っていない。
「ンだよ…嫌なのか?」
初めに抵抗されるのは毎度のことだが、いつまで嫌がられると…。
さすがに不審に思う。

――こ、こわいよ蛮ちゃん…
目はギラギラしてるし、思いっきり眉間に皺が…。
本当は銀次だってこのまま先に進みたい、と思う部分もあるが、何かがおかしい。
それに…胸につっかかるものがあるのだ。

「ねぇ、蛮ちゃん…。オレらなんか忘れてない?」
「あン?…卑弥呼のことか?
アイツが言った事なら気にする必要…」
「っ、それだぁ!!」
さきほどまで快感に溺れかけていた姿は何処へやら…。
蛮の言葉に大きく反応した銀次。

「それだよ蛮ちゃん!ホラ、卑弥呼ちゃんあのとき…」
『夜になれば嫌でもわかるわよ!!』
「って…。あの毒香水、なんかしら仕掛けがあって…!」

そこで銀次の声は途絶えた。

同時に、スバルの中に広がる煙。

「っけほ…蛮、ちゃ…」
「っクソ!なんだってんだ…!卑弥呼のやつ、何を…。銀次、平気か…?」
「うん、蛮ちゃんは…?」

「なんか…重てェんだけど」
「重い?」
二人の視界は未だ白く、相手の声しかわからない。
しかし、先程の爆音で耳も少し聞こえにくくなっている。

「あ…見えてきた…蛮ちゃん、だいじょう…」

――え?

銀次は、思わず目を見開いた。

「銀次…」
いや、おかしいって。
目の前の人物は、確かにオレの名前を呼んでる。
でもさ、…えぇえ…?

「オイ銀次、返事し……ろ…?」
あ、蛮ちゃんも気付いたんだね…。
かたまってるよ。
「ば、蛮ちゃん…」

オイ…おかしいだろ、コレ。
俺の上に乗っかってるヤツは、さっきまで俺がいたようなポジションで、何故か今俺は下にいて。
つか、声が違う。…ってか、姿も…

なんでコイツが俺になってるんだよ!?

そして、話は冒頭に戻るのだ。

 

 

→2

 

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